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キネマ見ましょか

2009年02月03日

チェ 28歳の革命

【監督】スティーヴン・ソダーバーグ
【出演】ベネチオ・デル・トロ、デミアン・ビチル

 1枚の写真を見ている。チェ・ゲバラが広島市の原爆慰霊碑の前に立っている。本作で描かれたキューバ革命の勝利宣言から半年後の1959年7月、永遠の戦士はこの場所を訪れた。
 裕福な家庭に生まれて頭脳も明晰なゲバラは、祖国で貧困にも革命にも縁のない豊かな暮らしをおくることもできただろう。しかし彼は常に「現場」に足を運び続けた。23歳の時にバイクで南米を旅し、28歳でキューバの革命軍を率い、39歳にボリビアで亡くなったアルゼンチン人チェ。彼の人生の三つの場面を、私たちは映画を通して観ることができる。そして映画に描かれなかった時間も彼の足は止まらなかったことをこの写真は語っている。感謝したいような気持ちになる「チェ 31歳のヒロシマ」である。  

 (nao)

2009年01月05日

シャイン・ア・ライト

【監修】マーティン・スコセッシ
【出演】ジム・スタージェス、エヴァン・レイチェル・ウッド

 このコラムを読んでいただいている方ならまたか!と思われるかもしれませんが、素敵なロック映画を見て来ました。昨今、たいていのコンサート映像なら、YouTubeで浴びるほど見ることが出来ます。しかしさすがスコセッシ監督、四人の演奏風景をただ撮っただけではありません。本番に至る緊張感や若い頃のメンバーを映すフィルム(「60歳を過ぎても、もちろん歌ってるさ!」)が過剰になることなく配されて、ステージの迫力をいっそう高めます。見終わった後の満足感は、生のコンサートに劣るものではありませんでした。
 スコセッシ監督66歳、ストーンズ平均64歳、そして観客nao.○歳。中高年の、中高年による、中高年のための映像…あなたは綾小路きみまろですか?私はKeep On Rollin’です。

 (nao)

2008年12月01日

『空白の天気図』『広島の四季』

【空白の天気図】柳田邦男 監修
広島気象台・広島平和文化センター製作

【広島の四季】広島市 製作

 「空白の天気図」は、先月のこのインフォメーションの裏面「舟入散歩」でも紹介した、柳田邦男著の同名の小説を映像化した作品。被爆当時の江波山の気象台で「欠測なし」の観測作業を続け、被爆状況の調査に取り組んだ台員たちの姿を描く。約13分のビデオだが、原作のポイントがうまくダイジェストされている。
「広島の四季」は、タイトル通り広島の四季を代表する風景が美しい音楽とともに5分間、スライドショーのように映し出される作品。地元の者にはおなじみ風景だが、来広された外国の人に広島の風物詩を紹介するとき格好の手引きとなるのではないだろうかと思った。
 二本とも広島江波山気象館のビデオルームで鑑賞することができる。

 (哉)

2008年11月04日

アクロス・ザ・ユニバース

【監督】ジェリー・テイモア

【出演】ジム・スタージェス、エヴァン・レイチェル・ウッド

 ザ・ビートルズの曲を30曲以上使ったミュージカルです。でも曲だけではなく登場人物の名前も、台詞に挟まれる言葉にも、そして小道具にまでもビートルズが溢れています。リヴァプール生まれの主人公ジュードが、ニューヨークに渡って見つけた恋と友情とサムシング。愛しいひととのすれ違いや世の中の大きな動きの中で「誰にも何にも僕は変えられない」と歌うジュードの長く曲がりくねった道はどこに続いているのでしょうか…。
 時に荒々しく、時に幻想的な映像は1960年代という時代を感じさせるとともに、立ち止まっては途方にくれる若い日々の切なさを思い出させます。この映画はきっと、4人の音楽を持つ世界に生きているあなたや私の物語でもあるに違いありません。

 (nao)

2008年10月02日

BACK DROP KURDISTAN バックドロップ クルディスタン

【監督】野本 大

【出演】カザンキラン一家、他

 クルド人とは「国家を持たない世界最大の少数民族」。トルコ国内で建国しようと活動している人々は、トルコ国民から憎まれている。だから、トルコ国内に住むクルド人のほとんどは、建前上トルコの政策を受け入れ、表面的にはクルドの精神を放棄し、トルコに迎合して生きていく道を選ぶ。それを潔しとしないクルド人たちは、国内にとどまりゲリラとなるか、国外に逃亡して「難民」となる。
 この映画は、難民として日本にたどり着いたカザンキラン一家を追ったドキュメント。難民受け入れに対して慎重な日本政府の態度に失望したザンキラン家の人たちは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の前で有志の日本人たちと座り込みのデモを始める。いったんはUNHCRから「難民」の認定を受けた一家だったが、ある日突然、父親と長男が捕縛され本国へ強制送還される。
 映画監督を目指して勉強中だった青年、野本大は「クルド難民」という重いテーマに取り組んだ。日本国内にいては、答えは見つからない。野本は、トルコへ、そしてニュージーランドへと飛ぶ。多くの人々と会い、彼が作り上げた作品は、何も知らない、自己中心の国日本への強烈なバックドロップとなった。

 (naoさん休みにつき、amoが書く)

2008年09月02日

告発のとき  IN THE VALLEY OF ELAH

【監督】ポール・ハギス

【出演】トミー・リー・ジョーンズ、シャリーズ・セロン、スーザン・サランドン

 イラク任務から両親の元に戻るはずの青年が、帰還直後に消息を絶ち遺体で発見された。事件の扱いに消極的な軍と警察の協力が得られない中、退役軍人の父親と一人の女性刑事がその真実を探し求める。事件に関わった兵士達の証言はまさに「藪の中」。それに翻弄される一方で、旧式の銃のような風情の父親が息子から届いたデジタル映像の謎を解く。ようやく辿り着いた真実に、映画を観る私たちは父親と同じようにそれを受け入れられず、また何を恨めばいいのかも分からない痛みを味わうことになる。
 深い悲しみの漂うこの作品を温かくしているのは、題名にも関係する女性刑事の息子が登場する場面だ。息子を亡くした父親と父親のいない息子の会話は、心の中に埋まらない隙間を抱えながら生きていくことへの諦めと希望を、静かに交感し合っているように思えた。

 (nao)

2008年08月31日

シークレット・サンシャイン

【監督】イ・チャンドン

【出演】チョン・ドヨン、ソン・ガンホ

 亡くなった夫の故郷で新しい暮らしを始めた矢先に一人息子を悲惨な事件で喪ってしまう母親。そんな彼女に思いを寄せる一人の男性…設定はまるでひっそりとした恋愛映画なのですが、柔らかなベールで包まれたお話ではありません。母親シネは意地っ張りで頑なで子供や現実と向き合っているとは云えないし、街のひと達も善意より好奇心が勝っています。悲しみを癒すはずの信仰も、都合のいい欺瞞に満ちた世界のように見えます。
 徐々に心の平衡を保てなくなっていく彼女の傍にはいつも、出会いの時から思いを寄せるジョンチャンがいました。おせっかいでちょっと俗っぽいけれど、彼女に対する態度はずっと変わりません。彼の想いはシネの上に覆われた雲の隙間から射す陽の光。その光を受けて、シネは新しい表情を鏡に映すことがでたのでした。 

 (nao)

2008年07月01日

ジュノ JUNO

【監督】ジェイソン・ライトマン
【出演】エレン・ペイジ、マイケル・セラ

 物語の始まりは高校生で妊娠しちゃった、というちょっと古風(?)な出来事。主人公ジュノにとっての初体験は、彼女の周りの人たちにも初めて接する事件でした。驚き戸惑うのは「大人」たちで、しっかりと意思を持ち自分の決断を実行していくのはジュノと友人の高校生たちです。成熟できないでいる大人に、チープな服装でガムを噛みながら「しっかりしなよ」と叱るジュノのかっこいいこと!思わず「すみません」と謝ってしまいました。
 16歳って結構しっかりしています。感受性は豊かだし、記憶力は良いし、神経伝導も活発だから判断も決断も素早いのです。10代を主人公にした映画は若さゆえの純粋さ、傷付きやすさを主体に描かれることが多いですが、この映画は若さゆえの賢さとたくましさを見直させてくれました。大人の皆さん、これを見て気持ちよく叱られましょう。 

 (nao)

2008年06月02日

アイム・ノット・ゼア

【監督】トッド・ヘインズ
【出演】ケイト・ブランシェット、ヒース・レジャー、リチャード・ギア、クリスチャン・ベイル、マーカス・カール・フランクリン、ベン・ウィショー

 一人の人物を六人の俳優が演じていることが話題になっている。しかしボブ・ディランに関しては、この手法は極めて正しい。
 ディランの“正史”についてはM.スコセッシ監督の『ノー・ディレクション・ホーム』に任せよう。例えばK.ブランシェットひとりがディランの半生を演じたらどうか。なんだか物理的に無理に思える。H.レジャー、彼には彼自身の人生を取り戻してあげたい。R.ギア、C.ベイル…彼らにもやはりひとりで演じきることはできない。それは俳優の力量のせいではない。だってボブ・ディランなのだから。六人でも足りないくらいだ。七人目のボブ・ディランは観るひとの頭の中。でも当人はきっと「私はそこになんかいないよ」と、そっぽを向いている。

 (nao)

2008年05月02日

マイ・ブルーベリー・ナイツ

【監督】ウォン・カーウァイ
【主演】ノラ・ジョーンズ ジュード・ロウ

 二人で歩いていて何かの拍子にはぐれてしまったら、どちらかは動かないでその場にじっとしていること。そうすれば相手が見つけてくれて、また出会うことができるから。この映画に登場するカフェの店長はそんな迷子の鉄則を守って、突然いなくなってしまった女性を探し歩くのではなく、もう一度出会うのを待つことを選びました。彼女についてはほとんど何も知らないけれど、はぐれてはいけないひとであることを彼は分かっていたのでしょう。
 風のようにいなくなり、また戻ってくる女性はカーウァイ監督の映画によく登場します。寒そうに肩をすくめて彼女を待つ男性も、二人の距離を近づける鍵や手紙、ビデオといった小道具も。この映画はジェレミーの焼くブルーベリーパイ。はぐれたついでに旅をして戻ってきた観客を、当然のように同じ味で迎えてくれました。

 (nao)

2008年04月02日

ダブリンの街角で once

【監督】ジョン・カーニー
【主演】グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァ

 アイルランドについてこれまで接した映像、文章、音楽といった様々な情報は、私の頭の中に「好ましい風景といとおしい人々に出会えるところ」というイメージを作り出しています。訪れたことがないのに懐かしく思う国です。
 音楽をきっかけに出会った男女。失ったものをもう一度取り戻したい、ずっと願っていたものを手にしたいと思いながら、器用に自分を進めていくことができないふたり。彼らが共有した時間はほんの短いものでした。それでもその時間は、次の一歩を照らす灯りをお互いの心にともし合った時間でした。次の一歩の先は分からない。自信も少しもないけれど、それでもおずおずと前に進むことを選ぶ。生きていくことはその繰り返しであるというかなしさを包み込むような、今現在のダブリンの街。新しい情報をこの映画で得て、アイルランドにまた懐かしい印象が深まりました。

 (nao)

2008年03月15日

スゥイニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師

【監督】ティム・バートン
【主演】ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アラン・リックマン

時は19世紀、一人の蓬髪の男がロンドンに戻って来た。暗く鋭い瞳の奥に復讐の炎を燃やしながら。懐かしくも忌まわしいかつて住んでいた街で彼は友と再会する。その友は、彼の瞳のように鋭く光り輝く一揃いの剃刀だった…。
T・バートン&J・デップがお菓子工場物語に続いて届けてくれたこの映画は、ゴシック・スプラッタとでもいうのでしょうか。チョコレートと同じくらい血が流れてます。ぴかぴかの剃刀で人を殺してパイの具にしちゃいます。歌いながらです。勘弁してください。
原作は英国のミュージカルだそうです。十分に独創的で刺激的な物語を新たに映画で作って、それをどこから見ても自分の色にしてしまうのがこの監督の立派なところです。冒頭で私たちは、主人公と同じ目線で猛スピードでフリート街にたどり着かされてしまいます。もう監督の刃から逃れられません。 (nao)

2008年02月18日

4分間のピアニスト

【監督・脚本】クリス・クラウス
【主演】ハンナー・ヘルツシュプルング、モニカ・ブライブトロイ

このコラムを担当して下さっているnaoさんが風邪のためお休み。今回はnaoさんの友人のamoさん(a)と当社印刷部のtiku(t)の対談をお届けします。
a:音楽映画ファンの私としては、しびれたわ。
t:ぼくも感動しました。とくにラストシーン。
a:その話はあとでゆっくりと…。まずストーリーを紹介しなくちゃ。
t:刑務所に収監されている女の子がピアノの天才で、受刑者たちにピアノを教えに来ているおばあさんの先生がその才能にほれ込んで、若手のピアニスト発掘コンテストで優勝めざしてしごきまくる。
a:看守や他の囚人たちの嫌がらせもあったりして、主人公の子は問題を起すしで、彼女はコンテストに出場できるのか、ってハラハラした。
t:なんだか、ありきたりの人物設定とストーリーという感じもするんですが。
a:そうかなあ。主人公のジェニーとピアノ教師のおばあさんの演技に引き込まれてしまって…。そして、なんといっても音楽が最高じゃない? ジェニーが鍵盤を叩くたびにゾクゾクしたわ。
t:ぼくもジェニーにはまいっちゃいましたよ。わが国で例えるなら堀北真希ちゃんってところかな。スクリーンに釘付けでしたよ。それに、あのピアノの先生、前につとめていた会社の会長さんにそっくりなんだ。なんか親近感の湧く映画だったなあ。
a:ああ、そう。まあ、その会長さん…じゃなくてピアノの先生とジェニーって、いい関係よね。
t:ですね。看守も粋な計らいを見せたし。くらい映画だけど、ハッピーな気持ちになりました。
a:で、問題のラストシーン…。
t:やっぱりそれは伏せておいたほうがよいかも。
a:そうね。かわりにオフィシャルサイト(http://4minutes.gyao.jp/intro/)を紹介しておきましょ。
t:じゃ、最後にまとめのとして何かひと言…。
a:はい。あなたの「生きる目的は何ですか?」

2008年01月08日

転々-てんてん-

【監督】三木 聡
【主演】オダギリ ジョー、三浦 友和

 中年と青年の二人の男性が街を散歩。それだけでもどこか不思議なのに、その二人は借金の取立て屋とそのターゲット、しかも取立て屋は奥さんを殺した、なんて云っている。変わったことばかり起こる道行きの末、二人が落ち着いた先は他人同士で作られた「家族」でした。
 この映画を見て「家族」の定義は実は難しい、と思いました。両親に捨てられて何年も泣く事を忘れていた青年は、架空の家族との団欒を楽しみ、別れに涙を流します。彼にとって本当の家族はどちらなのだろう。CMに登場するどう見ても血の繋がりのなさそうな家族のように、割引がきくのが家族なのでしょうか。携帯料金だけでなく悲しみとか憎しみとか。映画の二人のように散歩をすれば、重苦しくなく「家族」について考えることが出来るかもしれません。(nao)

(nao)

2007年12月10日

Little DJ ~小さな恋の物語~

【監督】永田 琴
【主演】神木 隆之介、福田 麻由子

 10代の頃、ラジオは傍にありました。MTVのなかった当時は、新しい曲を聞いたのも、昔の音楽を勉強したのも、すべてラジオでした。そしていつの間にか、たまにタクシーや美容院で聞くだけのものになってしまった頃、枕元に再びラジオを置く日が来ました。それは病院のベッドでのこと。3週間の入院の間、傍に置くのを選んだのはテレビではなく、少し時代遅れの型をしたラジオでした。
 この映画は憧れだったDJになった男の子の物語です。彼の番組がオンエアされたのは、患者として入院した病院でした。私がいた病院に彼がいたら、きっと毎日リクエストを書いたでしょう。スピーカーから流れる彼の声に体調を心配したりもするでしょう。ひとの語る言葉と音楽の持つ力を信じながら、そっとお互いの回復を祈ったと思います。そしてi-Podで70年代の曲を聞いている今も、その力を私は信じているのです。

(nao)

2007年11月05日

サウスバウンド

【監督】森田 芳光
【主演】豊川 悦司、天海 祐希、松山 ケンイチ

 いるんです。こういう父親。彼のように元過激派でもアナーキストでもないけど、我が子でさえ困っちゃうような偏った自信と主張を持っていて周りはとにかく扱いかねてしまうのです! あ、ちょっと愚痴っぽいですか? そんな訳で始めのうちは微かな不快感すら抱きながら見ていました。
 でもこのお父さんの曇りのない笑顔にだんだん乗せられてきてしまいました。東京ではごろごろしていたくせに西表島に着いた途端、息を吹き返したように行動を始めます。口先ばかりではなく、やる時はとことん本気でやる人だったんですね、お父さん。その本気がとうとう大変な騒ぎを起こしてしまうけど、でもこのお父さん(と、さらに大物のお母さん)なら笑顔で乗り切ることでしょう。そしてしっかりした子供達がいれば。実際、この頃奇妙なほど大人びた子供たちが多いのは、大人が大人じゃないからかなぁと思い、最初の愚痴は忘れて反省した次第です。

(nao)

2007年10月20日

夕凪の街 桜の国

【監督】佐々部 清
【主演】田中 麗奈、麻生 久美子、堺 正章

 近くで生まれ育ち、今も同じ街に住んでいるので週に数度必ず通る平和公園。「ヒロシマ」を忘れることがないのと同時に、あまりに日常すぎて意識もしない環境に暮らしています。この映画を見て、主人公が歩いた道を歩きながら、そこに何度夏が終わっても終わることのない物語があることをあらためて思いました。
 主人公が亡くなる前に、また一人殺せたから嬉しい?と問いかける場面があります。この言葉で、疎開で広島を離れていた私の母が生前、「私を殺したかったのかと思うと許せない」と云っていたのを思い出しました。敵国にダメージを与えるということは、人間を殺すこと、ひとりひとりの人生を断ち切ってしまうこと。この簡単で最も重大な事実を思い出させる映画です。袖の短いワンピースからそっと目をそむける主人公の真夏の長袖姿が眩しく哀しく目の奥に残りました。

(nao)

2007年09月03日

天然コケッコー

【監督】山下 敦弘
【主演】夏帆、岡田 将生、佐藤 浩一

  こんにちは。筆者のnaoです。実は私の勤務先は学校です。そのため映画やテレビで学校の場面を見る時に細かいところに目が向きます。作り物っぽいと思うものもあれば、こういうやり方もあるなと役に立つこともあります。
 この映画は小・中学校合わせて生徒が7人の超小規模校の中学生が主人公です。市内の学校にいると想像も出来ない環境ですが、学校の造りや生徒の言動がさりげなく自然で気持ちよく見ることができました。
 中学生の頃は今思えば何でもないことが大事件でした。喜ぶことにも傷つくことにも敏感で、胸の振り子は毎日大きく揺れていました。時が経っても変わらないそんな10代の気持ちも、"今どきの若者"の姿も誇張することなく描いてある作品です。見ながら何度も思いました。こんな学校で働いてみたい!

(nao)

2007年08月10日

傷だらけの男たち

【監督】アンドリュー・ラウ&アラン・マック
【主演】トニー・レオン  金城 武

 題名の「男たち」は主人公の二人。一人は恋人を喪ってしまった理由を探し求めながら荒んだ生活を送っている。もう一人の主人公は幸せな結婚をし、いつも優しい微笑をたたえてスマートに生きている。その笑顔が隠している暗い一面に気が付いたのは、癒されないままの傷を抱えている男だった。不可解な事件を追う過程で徐々に明らかになる幸せな筈の彼の過去。抱えている男にとっても、心ならずも暴くことになってしまった男にとっても、辛い過去が解明された時、新たな悲劇が暴発する。
 トニー・レオンと金城武といえば『恋する惑星』を思い出す。この作品で人を想う切なさと甘美さを軽妙に演じた二人が今回の映画で見せるのは、心の中がのた打ち回るような生き様。男たちの想いは重く、そしてやっぱり切ない。

(nao)

2007年07月10日

アポカリプト

【監督】メル・ギブソン
【主演】ルディ・ヤングブラッド,ダリア・ヘルナンデス,ジョナサン・ブリューワー モリス・バード,カルロス・エミリオ・バエズ

 タニシ企画印刷移転に際し、今回は"新しい始まり"を求めた青年を描いた映画の話をします。その映画はメル・ギブソン監督の最新作『アポカリプト』。歴史の授業やテレビの紀行番組では触れられることのない、生身の人間たちと彼らが生きて滅びていった時代の物語でした。
 この映画を見て最も強く思ったのは、死ぬってこんなに痛くって血がたくさん出ることなんだ、ということでした。物語を語るための極端なシーンも誇張しすぎる部分も確かにある作品です。けれど人間の生死は決して観念的なものではない、頭の中で思い描くものではなく一人ひとりが現実的に対峙しなければならないものだ、と語りかける力強さは他の映画には無いものでした。森の中を走る主人公は世界を救う不死身のヒーローではありません。新しい始まりのために、そして愛のために戦うひとりの、私たちと変わらない人間です。

(nao)

2007年06月10日

主人公は僕だった

【監督】マーク・フォースター
【主演】ウィル・フェレル、エマ・トンプソン、ダスティン・ホフマン

 映画の主人公には時々何者かの‘声’が聞こえる。「それを作れば彼はやってくる」という声を聞いて野球場を作った主人公のように。この映画の主人公ハロルドに聞こえてきた声は、彼を主人公にした小説の作者のものだった。その声は悲劇的な結末を暗示。職場と自宅を往復するだけの毎日を送っていたハロルドはハッピーエンドを求めて行動し始める。文学部の教授の助けを借りながら遂に作者と対面した彼が渡された草稿のラストは?
 最期の予告が聞こえなくても、人は皆いつか死んでしまう。その事実を受け入れて初めて人は意思を持って生きていくことを始めるのかもしれない。愛すること、許すこと、そして誰かのために手を差し伸べ心を開くこと…いつかは無くなる自分の命のために大切だと思うことが出来るように、そっと耳を澄まして声を探してみる。たぶんそれは神のものではない。もっと近しい声、もしかしたら自分自身の、声。

(nao)

2007年05月14日

ユメ十夜

【監督】実相寺昭雄、市川崑、清水崇、清水厚、豊島圭介、松尾スズキ、天野喜孝&河原真明、山下敦弘、西川美和、山口雄大
【主演】小泉今日子、うじきつよし、他

 お伽話などで「夢落ち」というものがあります。「不思議の国のアリス」のように、実は夢でした、で終わる、ちょっと反則のような結末です(それでも「アリス」は面白いですけど)。その点、夏目漱石の「夢十夜」は"こんな夢を見た"で始まる「夢落ち」ならぬ「夢始まり」。何が書いてあっても訳が分からないなんて云わせない、これも反則のひとつかも。
 見た夢を文章にするのは難しい。話して他人に興味を持たせるのも難しい。面白くもない夢の話を聞かされてどう反応したらいいのか困ったこと、あるでしょう?でも漱石の「夢十夜」は不思議な魅力に溢れる連作です。自分が書き残すことが出来なかった夢がそこに書かれているような気にさせられます。その原作を十人十色の描き方で映像にしたのが本作品です。漱石の文章の香りまで伝わった実相寺監督作品、2ちゃんねる語で語りながら実は原作に最も忠実な松尾作品…十編続けて見ると混乱してしまいそうですが、今夜の夢でまた続きを見るのかもしれないですね。

(nao)

2007年04月02日

ドリームガールズ

【監督】ビル・コンドン
【主演】ビヨンセ・ノウルズ、エディ・マーフィー、ジェニファー・ハドソン、ジェイミー・フォックス

 映画館で同級生に遭いました。また、職場の同世代の女性陣が揃って「見たい!」と云っていました。ビヨンセにもモータウンにも特に興味がない、かなり昔にガールだった女性達をそんな気にさせるのがこの映画です。歌うことが大好きな少女達の挫折と成功を描いた物語ですが、彼女達に関わる男性達の役割が絶妙です。成功に導いてくれるけれど人生を満たしてはくれない夫、軽薄だけどいとおしい、必死に生きて破滅していく恋人、優しく厳しく付かず離れずいてくれる兄、そして全ての人に見放された時、引っ張りあげてくれる父親のような年配の男性。昔のガール達は彼らに誰かを重ねて見るかもしれません。
 映画のように明確ではないけれど、何かを夢見ていた頃のことも思い出して、頑張っていたあの頃の私はどこへ行ったのかしら、とほろ苦い気持ちにもなるでしょう。でも映画館を出た時、きっと心の中のドリームガールが背中を押して前を向かせてくれることと思います。

(nao)

2007年02月20日

ヘンダーソン夫人の贈り物

【監督】スティーブン・フリアーズ
【主演】ジュディ・デンチ、ボブ・ホプキンス

 第二次世界大戦の最中に英国で初めて裸体女性のレビューを企画開催した女性の物語。ということで、皮肉な笑いに満ちた映画を予想していました。実際にそういう部分もありましたが、それだけのお話ではありません。
 主人公は金持ちの未亡人ならではの傲慢さも持っていますが、それが見ていてとても気持ちがいい。間違っていないと思っても、自分の云いたいことをはっきり主張したり、思うままの行動をとるのは難しいことです。けれどヘンダーソン夫人はそれを堂々とやってのけてくれます。そんな怖いもの知らずで格好いい彼女の突飛な発想や体制に屈しない姿勢は、実は悲しい思い出から導かれたものでした。この映画は、時間はかかるけれど涙を笑顔に変えられる日はきっとくるのよ、と温かい手で包まれるような気持ちになる物語です。

(nao)

 

2007年01月20日

硫黄島からの手紙

【監督】クリント・イーストウッド
【主演】渡辺 謙

 「父親たちの星条旗」と本作品の硫黄島二部作について語るイーストウッド監督を様々なメディアで見かけた。彼が繰り返していたのは『戦争にヒーローはいない』という言葉だった。
 ここには戦場にいる人達の、彼らの心を支えていた家族への思いが描かれているが、感傷的な印象はない。激しい爆撃の場面は、人間とはこういうことをするものだという冷めたような視点すら感じた。そして思い出したのがホットドッグを咀嚼しながら淡々とマグナムをぶっ放すハリー・キャラハンの視線。怒りと哀しみが深いあまりに冷淡に見えてしまうあの眼だ。監督はあの眼で映画を撮っている。人間がいとおしくてたまらない、そしてその人間を破壊していくのも人間であることへの静かな憤りが全編に流れる作品である。

(nao)

 

2006年12月20日

ウィンターソング

【監督】ピーター・チャン
【主演】金城 武 ジョウ・シュン チ・ジニ

彼女が忘れようとした過去は、彼が取り戻したいと願う過去。二人の間に流れた別々の時間を繋ぎ合わせるのは、映画の神様が送り込んだ恋の天使なのか。別 れて10年が経ち、二人は俳優として共演することになった。彼女の現在の恋人である監督を加えた三人の想いが、ミュージカル映画の場面と交錯し、触れ合 い、また離れていく。
 人生の映画ではみな自分が主人公。冒頭で語られるこのような感覚は、多くの人が持っていると思う。運命的な相手役のはずの恋人が、いつの間にかエキスト ラに変わったりして、毎日場面はカットされ脚本は書き直される。そのカットされた場面を集めたら…この映画はちょっとおせっかいな天使が見せてくれたラブ ストーリーである。さて、ところでわたしの映画の次のシーンはどうなるのでしょう、天使さん。

(nao)

 

2006年11月20日

カポーティ

【監督】ベネット・ミラー
【主演】フィリップ・シーモア・ホフマン 

  ノンフィクション文学「冷血」執筆中の T・カポーティを描いているということで、その本を読んでから映画を見ることにした。虚構の犯罪小説とは異なる緊張感を持った文章は、関係者や犯人に執拗なまでに迫りながらもどこかで突き放しているような印象を受けた。
 カポーティが殺人事件に関わった最初の理由はジャーナリストとしての興味だろう。彼をいかにも「余所者」として見る街で、近親者や担当保安官の取材を続けるうちに彼はついに犯人と接触することになる。二人組のうちの一人は、凶暴というよりは内省的な表情をした小柄な若者だった。彼に自分と同じ部分を感じると語ったカポーティであったが、それは果たしてそうだったのか。死刑前の犯人に見せる涙は、パーティで取巻き達に見せる笑顔と同種のものではないのか。そんな風に思えてしまう得体の知れないP.S.ホフマンの演技が忘れられない。殺人事件よりカポーティその人がミステリーである。

(nao)

2006年10月20日

ゆれる 

【監督】西川美和
【主演】オダギリ・ジョー  香川 照之 

 兄弟とひとりの女性。女性は兄弟の前で命を落としてしまう。殺人事件なのか事故なのか確信は得ることはできない。最後の場面も、もしかしたら弟の思い込みかもしれないのだ。しかしこの映画は謎解きのミステリーではない。離れたくても離れられない、でも一方で繋がっていたいのに手を伸ばしても届かない兄と弟の心の物語である。
 映画には二人の父親と叔父というもう一組の兄弟も登場する。二組の兄弟は距離を離したり縮めたりしながら闘い続けている。家族のことは誰よりも分っていると思いたいが、完全な理解は難しい。しかし闘ってばかりかもしれないけれど、それでも家族はやはり特別な存在だ。兄弟を親身に心配する従業員が登場する。その言動は心温まるものであるのに、それに反発を見せる弟の姿に較べて薄く見えてしまうのは彼が家族ではないからだ。この兄弟は父親たちのようにこれからも衝突と抱擁を繰り返すことだろう。その時間すべてを、かけがえのないいとおしいものとして心の底に蓄積しながら。

(nao)

2006年09月20日

パイレーツ・オブ・カリビアン

【監督】ゴア・ヴァービンスキー
【主演】ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ

 シリーズ第二作の本作品は、前回で語られなかったエピソードが明らかにされる続編であるとともに、新たな謎が示される第三作への壮大な予告編でもあります。愛すべき海賊、キャプテン・ジャック・スパロウを筆頭に、三人の中心人物は、くるくる変わる表情と前回を上回る激しいアクションで見る側をお腹いっぱいにしてくれました。
 主人公たちを取り巻く様々な人物や海賊船を形作る造形技術には目を見張ります。現実には存在し得ない奇妙な存在と戦う人は本当に大変。けれどそんな深海の魔物を見ていると、ここまでしなくても...とさえ思ってしまいました。主演の三人だけでなく、どの出演者も印象的な人ばかりです。その彼らをSFX漬けにするのはなんだかもったいなくて特殊効果を若干控えめにしてほしいと思ってしまいました。もちろん最初から最後まで思う存分楽しめるのだけど、次回では監督にこの贅沢なお願いを聞いていただきたいなぁ。

(nao)

 

2006年08月20日

かもめ食堂

【監督】萩上直子
【主演】小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ

 三人の日本の女性の過去も、フィンランドにたどり着いたいきさつもほとんど示されないままの映画ですが、なぜか違和感はありません。その理由が、帰りに寄った本屋で分かりました。
 『普通の暮らしを楽しむ』をテーマにした本の多いこと。そこには仕事用の靴や化粧から離れて、ナチュラルな色調でまとめられた部屋でシンプルな器に盛られた気取らない食事を楽しむような時間を薦める写真が掲載されています。実際の『普通の暮らし』はもっとごちゃごちゃした色彩で、休みだからといって仕事を忘れるはずもなく、それらは目に優しい絵本のように思えます。
 この映画もそんな絵本を眺めるように見ていたので違和感がないのでした。けれど登場する人たちが皆きりっとしているので、詳しい説明は無いのに好ましい説得力があります。この映画を見た日のご飯にシャケを焼いた人は多いのではないでしょうか。うちもそうでした。

(nao)