国家の罠がベストセラーになったことは、「逮捕された(刑事被告人になった)からワルだ」という短絡的な発想に与しない日本人がまだ多くいるという証しだと言えなくもない。
本書は産経新聞の元モスクワ支局長斉藤勉氏の質問答える形式を取っているが、そこはお互いに理解し合った中あうんの呼吸が見事である。
著者は斉藤氏から、ロシアが好きかどうか、それに小泉首相の悪口を言わない理由について、「自分はただロシアとは職業(外交官)として接してきただけで、日本が一番好きである。ロシア人もエリチェンやプーチン、アメリカ人もブッシュの悪口はいうが、外人から彼らの悪口を聞くと大変怒るのだ」という。それに引き替え、一国の総理の悪口を言う外国人に怒らないばかりか、むしろそれを喜ぶ日本人の存在のいかに多いことか。
著者は「北朝鮮とのパイプ作り」についても、向こうのホテルになにもしないまま何ヶ月でも滞在し、先方からのアプローチがあれば「ただの電話番であって、忠実に国に伝えるだけに徹するし、会いたい人は金正日将軍様の日程を管理する人だけだ」という、「白旗(軍師)作戦」というユニークな案を提示する。
またロシアとの接触にモンゴルの朝青龍の父親のルートを活用する案とか、反日デモで壊された大使館など謝罪があるまで一切修理させず、この国の理不尽さを世界中に見せつけるべきだった、その他明敏且つ大胆な発想を提示してくれる。
本書の中で「日本の外務省には、いかに無作為の罪が多いか」を、一つ一つ事細かに指摘しているのだが、その1例として中東問題を挙げている。日本の外務省はアラビア語や中東の研究などは、主としてシリアで行い、イスラエルを無視している。多くの国はイスラエルで学んでいるのだが、軸足を中立ではだれにも信用されないという。
著者はかつてロシアとの折衝にイスラエルを仲介にして動いたが、その際次官の許可を得ての予算や行動が、結局罪として断罪されることになった事実がある。イスラエルは日本のシンドラーこと杉浦千畝に大きな恩義を感じているので日本に好意的だが、外務省は彼の行為が越権だとして最近まで無視してきた経緯がある。
著者はまた靖国や、新しい歴史教科書問題にも好意的なスタンスで接しており、彼なりの対応策を論じている。
つづまるところ外務省は、有り余る著者の能力を生かすどころか、金の卵を産むトリを、むざむざ野に放ってしまったことになる。可能ならば安倍幹事長の秘密機関の長として活用して欲しいものだ。
本書でもっとも感銘を受けたのは、チャイナでは簡体字、コリアではハングルだけにしてしまったことは、過去の歴史からの離別を意味している、という指摘である。かつて日本も同じ憂き目を見ているが、それはひょっとするとGHQの差し金だったか、コリアの場合は幼稚なナショナリズムだとして、チャイナの場合は共産党による陰謀だといえるかも知れない。 北畠親房の『神皇正統記』に傾倒する著者から見ると、外務官僚の歴史認識と国語知識の欠如は、まさに憂慮の極みに思えるはずである。