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博士の愛した数式

縄文塾塾長 中村 忠之

縄文塾

小川 洋子 著  新潮社  定価1575円(税込) 

 不眠症なので、夜小説を読み出すと益々眠れなくなるし、日中だったらやりたいことが出来なくなってしまう、というごく単純な理由で、長い間意識的に小説を読まないようにしてきた。したがって書評すら心許ない有様である。

 じつは2004年9月本欄に、CW・ニコルの「勇魚」と併せてこの『博士の愛した数式』の短評を書いた経緯がある。ここ最近所用にかまけてほとんど読書から遠のいていたため、何を書こうかと悩んでいた矢先、本書が寺尾聡主演で映画化されることになり、そうしたタイムリーさだけを頼りに、苦し紛れに一部再録でお茶を濁すことにした。

 なにしろ著者小川洋子が芥川賞作家だったなども知らなかったくらいだが、本書は「本屋が一番呼んで欲しい本」のトップになっているベストセラーなのだが、なにしろ数学といえば学生時代、嫌いだったという人が多い。塾長も大嫌いな学科で、あまりいい思い出はない。その数学・数式をテーマなのだからすごいことである。

 (以下多少手直しして再録) 「本書は、まるでノンフィクションを思わす、淡々としたタッチで3人の交流について語っている。(実は相思相愛であった)義姉の庇護のもとで、ひとり別館で暮らしている老学者はルートや私(その母)に、なんでもないような数字に息を吹き込み、数そして数式の持つ美しさ神秘さを限りなく優美に且つたのしく語り、二人を否応なく数字の持つ数式の持つ不思議な魅力の世界にいざなう。もし塾長も、こんな数学教師に出会っていたら、数学好きになっただろう」

 主人公は、17年前の交通事故の影響で、事故以後の記憶は80分(1時間20分)しか継続しないという天才的数学者の家に雇われた、(主人公に<√=ルート>)と名付けられた)子供連れの家政婦が数少ない登場人物という、きわめてユニークな設定だが、ルートの母の前に9名の家政婦が辞めさせられている前歴がある。

 記憶を繋ぎ合わせるために袖口に記憶用のメモを止め付けている一種偏狭的な博士だが、彼女に10歳の子供があることを知った博士から、小さな子供を一人にしてはいけないから連れてくるように言われ、子供連れの奇妙な勤務になるのだが、博士はこの子供を『ルート』と呼んで深い愛情を傾ける。

 こうして数学や数式を中心にした、博士と家政婦親子の奇妙な生活が始まる。博士にかかるとすべて数字あり数式であり、いつしか家政婦もルートも博士の純粋な数学に対する愛情に引き込まれていく。

 博士によると、数字・数式こそ絶対の美であり、真理であり、世界であり、宇宙である。森羅万象が数字・数式によって語られることが当然のように思えてくる。実際文中に、いくつも数式や素数とか実数・虚数などの数学用語が氾濫するのだが、それさえ美しく思えるから不思議である。

 さて映画で寺尾聡演ずる博士は、どこまで原作の博士に迫れるのだろうか。