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祖国とは国語

縄文塾塾長 中村 忠之

縄文塾
藤原 正彦 著   新潮文庫

松浦 育郎(寄稿)

 大ベストセラー「国家の品格」の著者が、それに先立つ2000年から2003年かけて書かれたエッセイを文庫化されたものである。本書 は「国語教育絶対論」「いじわるにも程がある」「満州再訪記」の3篇から成っている。

 「国語教育絶対論」は、明治大学教授で「声に出した読みたい日本語」の著者齋藤孝に「ああ、この人に文部科学大臣になってもらいたい」 といわせた教育論である。著者はまず、日本の現状を危機と見る。外交上も経済上もであるが、教育の乱れがその本質ではないかと説く。ゆと り教育路線が定着してから、学力は着実に低下し続けている。ゆとり教育が解決を目指した落ちこぼれ、いじめ、不登校、学級崩壊なども一向 に減る兆しを見せない。次に述べる所論には全く同感としか言いようがない。漠然と感じていたことを顕在化させてくれた。

1.国語はすべての知的活動の基礎である。
 情報伝達のため最重要なのは読む、書く、話す、聞くであるという。これができていないと思考がままならない。語彙を多くするため、漢字 を多く知らねばならない。小学生の頃の、記憶力が最高で、退屈な暗記に対する批判力が育っていないこの時期を逃さず叩き込まなくてはなら ない。強制で一向に構わないという。このためには読書が最良の手段である。読書は教養の土台であり、教養は大局観の土台である。大局観は 長期視野と国家戦略の基本である。これが失われていることを嘆く。

2.国語は論理的思考を育てる
 日本の大学生がアメリカの大学生に比べて論理的思考に弱いことについて、国語による論理的思考の習得を説く。書くことや討論を通じて物 事を主張させることの重要性を言う。筋道を立てて相手を説得させることが論理の始まりであるという。

3.国語は情緒を培う
 人生のいろんな体験を通じて培われる情緒が人間を作る。直接体験だけではなく、読書を通じた経験が更に幅を広げる。日本には情緒に満ち た著作が古今を通じて多い。これらから学ぶことが必要である。特に年齢に応じた読書は重要である。

4.祖国とは国語である
 本著の表題であるこの言葉は、フランスのシオランという人のものである。他民族の国では共通の言葉がアイデンティティーであり、祖国、 祖国愛であるという。

5.これからの国語
 最近有名になっている「小学校における教科間の重要度は、一に国語、二に国語、三、四がなくて五に算数、後は十以下」。ルビつきでよい 、文語の語調のよさも大切である。 今分からなくても、語調として覚えておけば、いつか分かるときがくるのである。

その他、英語第二公用語無用論、犯罪的な教科書、まずは我慢力などの教育論が続く。

「いじわるにも程がある」
 家族の間で発せられる「発見ノート」にまつわる話や、父新田次郎と母藤原ていの思い出、 畏友山本夏彦との交友などが軽妙な語り口で書 かれており、楽しく読める。

「満州再訪記」
 著者の出生地である満州瀋陽を家族で訪問したときのドキュメントである。満州の成り立ち、当時の日本の状況などにソ連侵攻から逃避行の 記憶、父母のことなどをを混ぜ合わせて楽しくまた切実に記述してある。その逃避行を書いた母藤原ていさんの「流れる星は生きている」(中公文庫)を併せて読まれることをお勧めする。