2000年にこの初版本が出版されたとき、池谷裕二はまだ30歳という若さで、薬学の立場で脳の研究に取り組む気鋭(東大の薬学部助手という)の学者である。糸井重里については紹介する必要のないくらい著名なコピーライターだが、糸井の当意即妙な発言によって、うまく池谷の考えや表現を引き出されえるという形で、「脳」という不思議で難しい分野を、われわれにわかり易く説明してくれる。まさに絶妙のコンビネーションが難解なテーマを分かり易く楽しい読み物にしている。
「海馬」という脳の一器官が、記憶を司る場所だということを始めて知ったのだが、脳細胞は減る一方で増えることがないといわれてきたのに、この海馬の細胞(神経)だけは、使うことで増えるということも真剣な驚きだった。同神経回路(シナプス)は、思考を重ねる毎に増える上、「決して疲れない」のだそうな。
この「海馬」という器官は、大脳皮質の内側(脳の中心)にショックから大切に守られている、小指くらいの大きさで、タツノオトシゴの形をしているところから名付けられたもので、先に扁桃体というクルミ状の器官とセットになった左右1対で構成されている。
この「海馬」の仕事は、毎日側頭葉から送り込まれる情報を取捨選択し、必要なものを記憶として側頭葉に送り返す事だそうだ。
脳細胞が死ぬ一方だという理由は、いつまでも昔のことを覚えていると、新しい記憶との混同を避けるためで、実際にわれわれは、脳細胞の98%は使っていないのだから脳細胞が死んだと言っても何の問題はないという、嬉しいような寂しいような事実も教えてくれる。
また記憶力だが、問題はただ記憶することだけではなく、それを思い出すことの方が大切であって、われわれは記憶したものを脳のいろんな箇所に分けて保存しており、必要に応じてそれらを手際よく纏めて書いたりしゃべったりすることなのである。
各章ごとに取り纏めとしての要約があって、しかも非常にわかりやすいのが特徴で、われわれ年寄りにもうれしい部分が沢山ある。たとえば第1章「一流はおしゃべり」というもので、お喋りし過ぎていつも反省しきりだった塾長への助け舟でもある。
本書のお陰で、「眠ることは脳の整理である」とか、「記憶にも沢山の種類があり、記憶を高める方法がある」など、今まで知らなかったことを実に沢山教えられた。その中で特にうれしかったのは、「歳を取っても脳は成長する」というくだりと、「30歳の誕生日」が人生の縮図で、その時に考えたことでその後の人生が決まるようなものだ」というところである。
ちなみに塾長の場合(誕生日云々は別として)この時期に、ハイブリッドアメリカ鶏が輸入されたことであり、このハイブリッド理論がイン・プリントされ、縄文塾に結びついたのである。
また歳を取ったから物忘れがひどくなると言うのも、興味のあることや特に気になることなどはしっかり記憶するところから見ても、ウソだということが分かる。自分事で恐縮だが、塾長の場合も、昔から見てはるかに物覚えが良くなったのだが、これも「柔軟性と好奇心」をモットーにして、興味のある本を読み、話を聞いてきたせいだとわかった。
皆さんもぜひこの本を読んで、自ら実証して欲しいものだ。このような「タメになる本」が500円あまりで読めることは、幸福以外にない。なお、もっとくわしく「記憶力のメカニズム」と、その実践法に触れたい方は、同池谷氏の記憶力を強くするの併読をお勧めする。