田中慎弥 著
新潮社 発行
本書には中篇が2作収められている。
表題にもなっている『図書準備室』は、三十歳を過ぎてもなお今まで一度も働いたことのない青年が、自分の心境を語るという形の小説。法事で会った伯母に、自分がなぜ働こうとしないのかを話し始めるのだが、主人公の話す内容は意外な方向に進んでいく。
もう一つの『冷たい水の羊』は、同級生たちから過酷ないじめを受けている中学生の少年の心の動きを表現した作品。後半は、いじめられている少年だけではなく、いじめている側の少年・いじめを傍観している者の立場にも立ち、複数の視点からそれぞれの心理を描写している。いじめのシーンの描写は具体的で、そこだけとばして読んでしまいたくなるほど強烈だが、この具体的な描写によって主人公の少年の独特に醒めた心理が、より強調される。
本書を読んで、一般的に「弱者」と決め付けられてしまう立場の人間にも言い分があり、それは表層的な解釈では捉えきれないほど膨大な心的エネルギーを持っているのだと、あらためて考えさせられた。
(哉)