山本一力著『あかね空』を読んだ。先日久しぶりに本屋さんをぶらぶらし、単行本をいろいろ手に取ってみたけれど買う気がしない。文庫本のコーナーで『あかね空』の『あかね』という言葉に心惹かれ、又、映画『蝉しぐれ』を見た影響もあったのか、その本を買ってきた。その夜十二時過ぎに読み始め一気に三時までかかって読んでしまった。
考えてみれば最近は小説本を読むことが殆どない。ビジネス書や、自己啓発本、健康に関する本等が主流だ。カーネギー『人を動かす』とか北尾吉孝『何のために働くのか』、松下幸之助『一日一話』、新谷弘実『病気にならない生き方』といった本だ。これらの本は初めから読まなくても自分にとって必要なところだけ読むこともできるし、細切れの時間で開いたところを読む事だってできる。
しかし、小説はそういうわけにはいかない。面白くない小説にあたると、もう少し読めば面白くなるかと辛抱して読む事もあるが、結局途中で読むのを止めてしまう。反面、面白い小説に当たると読み出したら途中で止めることができない。そのような性癖で昔は寝不足で困る事も結構あったので最近は小説を避けていた。又面白い小説になかなか当たらないこともあったのだが、今回は久しぶりに寝不足な状況に陥ってしまった。
『あかね空』は平成十四年の直木賞をとった作品で、今年三月に映画化され、三月・四月に弊社のお得意様でもあるサロンシネマ・シネツインの両館で上映されていたのだが、その時分は『ドリームガールズ』と『ホリデイ』、『オール・ザ・キングスメン』など洋画ばかりに目が行き、『あかね空』は見逃していた。今となってはとっても残念だ。
江戸下町の市井の人情話だが、一組の夫婦を中心にして、親や子供、この夫婦をめぐる周囲の人間模様、お互いの思惑のすれ違い、最後に謎解きと幸せな結末、どこにでもあるような家族の話ではあるが、ぐいぐいと読ませてしまう作者の筆力と人物描写の深さに、小説の面白さを再認識した。又、時代小説と言われるこのジャンルの一般庶民や下級侍が主人公の小説がこれほど心を捉えるとは自分自身意外だった。新しく知った読書の楽しみで、この秋の夜長は充実してすごせそうだ。