« アイム・ノット・ゼア | メイン | 日本の森にオオカミの群れを放て 改訂版―オオカミ復活プロジェクト進行中 »

「孤独な少年の部屋」

中島義道 著 角川グループパブリッシング 発行

 著者の中島義道氏は哲学者で、以前にもこのコラムで著作の紹介をしたことがあります。善意の言葉や善行の裏にびっしりと苔のように生えている自己愛を徹底的に拒否したり、日本中に蔓延している騒音(「エスカレーターの足もとにお気をつけ下さい」のような言わずもがなのアナウンスetc.)や光害(昼間でもついている看板の光etc.)を糾弾したりとアグレッシブなイメージの強い中島氏ですが、本書でクローズアップされているのは、氏の、こわれてしまいそうなほどの繊細な部分。
 カイコが自分の吐いた糸で繭を紡ぐように生み出された、少年時代の中島氏の創作物にまつわる思い出が語られています。空想を織り交ぜて描かれた地図、偏執狂的な緻密さで書かれた観察記録やノート類、涙をぬぐいながらホルマリンの注射を虫たちに施して作製した昆虫標本、模造紙に書いた10mを超える歴史年表…。そして、たぶん著者の他の著作で深くは言及されたことが無かった、子供時代の家族と友人たちのエピソード。
 本書で見られる中島氏ほどすごいものではなかったのですが、頁を繰りながら、純白で真摯だった少年時代の自分をなつかしく思い出しました。

(哉)