自分でやってみた男 2009年08月

堀田 純司 著 講談社アフタヌーン新書 

 いろいろ理屈はつけてみても、ようするに「やってみたかっただけ」ということは、よくあることだ。本書もそのひとつ。好きな映画のワンシーンを自分たちで再現している。
 子供のころは、ヒーローに変身して暴れまくることができたが、大人になって同じことをやると、まわりから白い眼で見られる。しかし、本書の著者と、彼の仲間たちは「やってみた」。
 スパルタ軍の戦士やゾンビをはじめとして、どちらかというとビミョーな映画の登場人物などを、大まじめに演じ、その写真が載せられている本書。ジョークと呼ぶには、手間ひまかかり過ぎている。鍛えられているのか、単にメタボなのか、たくましい(?)男たちが、恥ずかしげもなく素肌をさらす。大スペクタクル映画をやってみたくても、人数が足りないので、コンピューターで増殖させたり、女性役がみつからなかったのか、あやしい人形を代役にしたりと、やりたい放題だ。
 パラパラ頁を繰ると、よい歳のおじさんの仮装写真のおもしろさばかりが目を惹くが、本文の文章が、すばらしくおもしろい。映画の蘊蓄やら、コスプレ写真撮影時のエピソードなどについて書かれた文章は、普段の会話のなかで話題に困ったとき役に立ちそうな気もする。もっとも、わかる人には(おそらく)わかる的な内容ではあるが。
 それにしても、いい歳をした連中が集まって、互いに蘊蓄を語りながら、わきあいあいと映画のシーンを真似しているところを想像すると、こちらまでワクワクしてくる。わたしも「やってみたく」なった。

(哉)

今月の気になる本

渚と街角の神話 2009年07月

福島清 著

  松山市の沖に由利島という無人島があり、そこに電話機のない電話小屋があるという。同じ伊予灘にある二神島の漁業協同組合がひいたものだが、海底ケーブルが不通となって電話機が撤去され、小屋だけが残っているというわけだ。かつて電話機があった頃には、その傍らには常に10円玉が積まれており、利用者の礼状がいくつも貼られていたという。本書に書かれているエピソードの一つだが、私は、無性に由利島へ行きたくなった。それも、現在のではない、電話機のそばに10円玉があった頃の島へ。
 さらに、由利島には桟橋がなく、小舟に乗りかえて、この、砂州のある島へ上陸しなければならないという。そして、浜辺と樹林の境界には、サボテンが数カ所、群生していると書いてある。「明日の予定なんか全部キャンセルにして…♪」、そんな気分。なので、ちょっと由利島散歩に行ってきます。
 というわけにはいかない…。いや、行ってもよいが、そうしたら、このタニシインフォメーション作成の時間が非常に短くなって、自分の首を絞めることになる。しかたないので、本書を再読して島旅への渇望を癒すしかないか。
 福島さんが広島市の画廊で本書の原画展をされたとき、少しお話をした。そして、氏の持っておられた取材のメモ帳を見せていただき、いたく感動したものだ。そうしたら、そのひと月後くらいに、胸騒ぎを覚えるほどに膨らんだ郵便物が私のもとに届いた。例の手帳と、本書のソフトカバー版の本書(市販されている通常版はかたい表紙)。どちらものしがついていた。
 福島さんは、現在、夏に予定されている京都での個展の準備中とのこと。

 (哉)

今月の気になる本

ボン書店の幻 モダニズム出版社の光と影 2009年06月

内堀 弘 著
ちくま文庫

  昭和初期、鳥羽茂という人がいた。ボン書店という出版社を一人で経営し、シュルレアリスムなど、当時の最先端の詩集などを刊行した。7年間の活動の末、忽然と姿を消した不思議な出版社ボン書店。選ばれた紙と素材を使い、鳥羽自身が活版印刷し、製本も手がけたらしい。大手の出版社が出す豪華本とは比べ物にならないが、貧しいながらも、独特の美意識で貫かれた瀟洒な本の数々は、美的なセンスでは豪華本を凌ぐほどの出来。若い詩人たちを魅了したようだ。
 そんなボン書店は、鳥羽本人の他界で自然に消滅。夢の中の出来事のような、小さな出版社。その実体とはどのようなものだったのだろうか。著者は、当時を知る人々や記録にあたり、想像力を駆使して、鳥羽の残した痕跡を追う。まるで足跡を消しながら歩くような鳥羽の人生をたどるのは困難を極めたようだ。結核に冒され、妻に先立たれ、幼いわが子を連れて東京を去った鳥羽だが、最期の時をどこで迎えたかということすらわからない。ところが、本書の初版の単行本発行以後、著者のもとに届いた新情報で、それまで見えなかった事実が明らかとなり、晩年の鳥羽の姿が『文庫版のための少し長いあとがき』として収録されている。そこに語られていることは、せつなく、悲しい。できることなら、読まずに本を閉じてしまいたいほどに。
 でも、こういう生き方をした人がいたということを知ることができて良かった。人はみな、それぞれが自分の名前を冠した店の店主みたいなものだから。

 (哉)

今月の気になる本

ちょいな人々 2009年05月

荻原 浩 著
株式会社文藝春秋 発行

 ●社長の気まぐれで、カジュアルな服装での出勤を命じられた印刷会社の社員たち。営業部部長の誠一は、若いOLからの評価に一喜一憂し、振り回されるはめに(『ちょいな人々』)。

●ガーデニングが趣味の女性と庭いじりの好きな老人が、虫やら猫の糞やらをめぐって丁々発止(ガーデンウォーズ)。

●さえない男がカリスマ占い師になってしまったら(『占い師の悪運』)。

●子供のいじめの相談に電話で対応する聡子たち「大人」。子供からの相談に対して過激に対応する聡子は徐々に仲間たちから浮いてゆく(『いじめ電話相談室』)。

●犬や猫に人間の言葉をしゃべらせるという「大人の玩具(がんぐ)」や、指を使わず話すだけで、その時の気分を反映したメールを送ることができる携帯を開発したおもちゃ会社。彼らの先進的なビジネスの行方は?(『犬猫語完全翻訳機』、『正直メール』)。

●治美の、婚約者は熱狂的なタイガースファン、父は巨人「命」な人…(『くたばれ、タイガース』)。
 作者の手帳には、こんなメモがずらっと書いてあるのかもしれない。このネタなら、おもしろくないわけがない。この短編集を読んで、日常の生活も、少し視点を変えて、オーバーに捉えてみたら楽しくなりそうな気がした。
 それにしても、若い子に「その服ステキ」と言われたら、私はおそらく、いや確実に『ちょいな人』になるだろう。

 (哉)

今月の気になる本

PAPER'S/ロマンチック保存装置 2009年04月

 「PAPER'S」は、紙の開発から販売まで手がけている総合商社 株式会社 竹尾が発行している紙に関する情報を掲載した小冊子。「ロマンチック保存装置」は、王子製紙株式会社のOUJI PAPER LIBRARYで配布されているリーフレット。どちらも紙とデザインと印刷が渾然一体となった宝石のような印刷物だ。

 両社ともエコロジーへの取り組みに積極的で、この二つの印刷物からもその努力を知ることができる。「PAPER'S 2007 No.26」の記事によると、竹尾は「森林認証」という制度に着目されているそうである。それは、「きちんと管理されていると認められた森から木材を切り出し、加工・流通・販売まで適切な認証を受けた業者や工場によって加工されたものだと認定する制度」で、「森をみんなで健康に保とうという気持ちを共有すること」だという。竹尾は、日本の紙卸流通業では初めて世界的規模での森林認証を取得した会社であるらしい。

 一方、王子製紙株式会社は、「ロマンチック保存装置 #6 完全版」で、(王子製紙の工場の中で)「ほぼ100%古紙だけを原料として印刷用紙を造っている」富士工場での古紙再生への取り組みを語っている。古紙を高い割合で含んだ原料をもとに製紙するとき、品質維持と製造効率を両立させるのは大変なことで、現場の方々は、日々、努力を重ねられているという。

 「PAPER'S」と「ロマンチック保存装置」。両社がそれぞれの立場から環境について考え、環境保護に取り組んでおられるということと、これらの宝物のような印刷物を発行されていることとは無関係ではないだろう。

 ところで、当社も印刷会社の立場からエコロジーを目指している。たとえば、印刷のインクには自然にやさしい大豆インクの使用を心がけているし、印刷用の紙として可能な限り再生紙の使用をお客様に推奨し、自社の企画物にもエコな紙を使用している。また、電力・水の消費量やゴミの排出量を測定し削減したり、社内での啓蒙活動、会社周辺の清掃等といった取り組みが評価され、平成19年12月には広島県内の印刷会社では初めてとなる「エコアクション21」の認証をいただいた。ちなみに、本紙も大豆インクとエコGという再生紙を使用している。

 (哉)

今月の気になる本

白 魔 2009年03月

 マッケン 著 南條 竹則 訳 光文社古典新訳文庫

 イギリスの小説家アーサー・マッケン(1863~1947)の中・短編小説集。最も惹かれたのは「生活のかけら」という中編だ。
 19世紀末のロンドン。主人公のダーネルは金融の中心街で働き、親戚からの贈与も受けて妻と平凡だが物質的には不自由のない生活を営んでいる。しかし、以前から迷路のような路地を散策するのが好きだったダーネルは、普通の人には見えない日常の背後にある世界、幻視の街をさまようことに快感を覚えるようになる。同時に一族に伝わる古文書の解読に没頭し、彼の異常な精神生活に拍車がかかる。あげくの果てには、路地裏にある異端の教団に入信してしまう。小説は、そんな彼の古代回帰を志向した不思議な詩と、退屈な日常から本来あるべき理想郷に法悦の境地で飛び込んで行ったことを暗示する文章で終わる。
 わかりにくい小説(私のこの紹介文もわかりにくいかもしれないが)だが、こんな感覚ではないかと思える体験が、ひとつある。 郊外に向かうバスに乗ってぼんやりと車窓を眺めていたときのことだ。しゃれた外見の郵便局の脇に低い木が茂っている一角があった。その枝の下には小さな川が流れているのが見えた。その場所以外は暗渠になっていて、あたりは旧市内とほとんど変わらないくらい宅地化されている。しかし、私は、そこが街と田舎の境目だと確信した。隠されてはいるけれども、そこは時の裂け目で、大昔からの土地が顔をのぞかせている。そんな気がしてならなかった。ダーネルが飛び込んで行った世界は、そんな裂け目の中にのぞいている世界なのではないだろうか。

(哉)

今月の気になる本

『アイデアのちから』『脳と気持ちの整理術』 2009年02月

『アイデアのちから』

 チップ・ハース、ダン・ハース 著
飯岡美紀 訳 日経BP社発行

 ・単純明快である、・意外性がある、・具体的である、・信頼性がある、・感情に訴える、・物語性がある。
この6項目に即して、具体的なエピソードを紹介しながら、記憶に焼きつくアイデアを生み出す方法を提示したのが本書だ。
 一読した後、世の中でもてはやされている商品やCMのキャッチコピーなどを思い浮かべてみると、たしかに、本書の6項目のすべて、あるいはいくつかを満たしていることがわかる。
 各章に設けられた「アイデア・クリニック」というコラムは、例文を提示し、それを人の心により響くものに変えていくようなものにする趣向。表現力を鍛える格好のドリルとなっている。
 本紙、特に裏面になっている「舟入散歩」作成のヒントをもらえそうな気がして、思わず購入してしまった。

 

『脳と気持ちの整理術 意欲・実行・解決力を高める』 

 築山節 著 NHK出版 生活人新書

 個人的な感想だが、仕事力アップを目指した本は、どれも読んでいて疲れるような気がする。自分が最高だと思っているノウハウを伝授しようという姿勢で語ってくる著者とこちらの思考が戦ってしまうせいかもしれない。
 しかし、本書は、「脳」というものの特性を踏まえて、脳というものの力を引き出すためにはこうしたほうがいいよ、というおだやかなスタンスで書かれているせいか、アドバイスがすんなりと頭に入ってくる。まさに脳に優しい本。
 各章の終わりに、ポイントがまとめられているのもありがたい。「できることが増えると好きになる」、「五歩先に解決がある問題の一歩目をまず見つけよう」というように。
 本書を読んだら、悩むより、とりあえずしっかり寝て頭を休めよう、とわりきれるようになった。

(哉)

今月の気になる本

『印刷物の考現学』『編集者!』 2009年01月

『印刷物の考現学』

 田中正明 著 オフィスリテロ 発行

 ポスター、カタログ、切符、切手、カレンダー、絵はがき…etc.世の中はさまざまな印刷物であふれかえっている。本書は、【1976年~1981年】と【1996年~2000年】の2期にわたって、「印刷雑誌」という雑誌に毎月掲載されたエッセイをまとめたもの。デザイナーである著者が、気になる印刷物を取り上げ、その印刷物の風合いを社会的考察をまじえながら述べている。著者の海外行きをはさんで2部に分かれているが、後半では印刷のデジタル化が大幅に進んでいる様子がわかる。
 「テレカ・デザイン学というものを(中略)じっくりと考えてみるべきものと思っている」と現在では懐かしいものになってしまったテレホンカードについて書かれているのも興味深い。
 地域の広報誌など地味な印刷物にも目を向けられているのがうれしい。この「インフォメーション」も今の世の中に現れた「印刷物」の一つ、真摯に取り組まなくてはと、あらためて思った。

 

『編集者!』 

 花田紀凱 著 ワック株式会社 発行

 『文藝春秋』『週刊文春』など数々の雑誌のデスク、編集長を経て、現在は『WILL』の編集長である花田氏。経歴が経歴だけに、作家や有名人の裏話満載。作家のもとへ原稿の催促に通い詰めた新人編集者時代。脂が乗りきってからは、政界・財界を相手に回してスクープを連発。本書は、著者がこれまで形にしてきた雑誌や週刊誌をぎゅっと圧縮して一冊にしたような本だ。
 題を見て、ベテラン編集者による編集の心得が書いてある本かと思い、手に取ったが、編集者の心意気が詰め込まれた本書は、ハウツー本などというやわなものではなかった。派手にレイアウトされたタイトルが宣言しているように。

(哉)

今月の気になる本

「職人学」 2008年12月

「職人学」

 小関智弘 著 株式会社講談社

 小関さんは、約50年にわたって旋盤工として働きながら、作家としてもご活躍され、町工場を取材したノンフィクションや小説を書いてこられた方。本書は、氏のお仕事のエキスのような内容になっている。見て、聞いて、実践されてきた人だけが書ける、現場で働く者の心意気と熱い血の通った『仕事論』・『人生論』といえるだろう。
 「機械にニンベンをつける」とは、小関さんがよく書かれることの一つだ。一つの仕事が工夫次第でやりやすくなり、生産効率が高まる。不可能に思えた仕事が、あっけなくできてしまう。そんな意味のことを「職人語」で表現したものだ。
 新しい技術が導入されて、一見時代遅れの用済みなものと見なされそうな技術が、経験を積んだ職人の手によって現代のハイテク技術を支えているという例は数多い。また、若い世代の新しい技術と職人たちの経験値がコラボレートして、すばらしい物が生み出される場合もある。町工場で金属を加工したことのない者にも、小関さんの文章は説得力を持って迫ってくる。
 また、氏が取材の過程で再会した、かつて共に働いた仲間たちの積み重ねてきたもの失ったもの…。「人生」という地層の断面を、小関さんの筆は鮮やかに描き出す。

(哉)

今月の気になる本

「いぬ会社」 「いい仕事の仕方」 2008年11月

「いぬ会社」

そにしけんじ 著 竹書房  発行

〔キャラクターがカワイイ!〕

 書店でこの表紙を見かけたら、店員さんに見つからないように、そっとカバーを外してみて下さい。パグの佐藤君とチワワの鈴木君が泣く泣く書かされた始末書が載っています。そのユーモアに笑ってしまうと同時に、私のような佐藤・鈴木両君に近い社員にとって文書見本として参考になりそうな気がしました。
 ところで、もし、あなたの上司がとても恐い人だとしても、いぬ会社営業3課のブルドッグの部長よりはましなのではないでしょうか。なにしろ、ブルドッグの部長は部屋にいるときは鎖でつながれているということなのですから。
 犬の習性と会社に出て働くということが、うまくミックスされた楽しい漫画集です。

 

「いい仕事の仕方」

 江口克彦 著 PHP新書

〔にんげんのかいしゃにつとめる あなたへ〕

 自己啓発書オタクを自認する私ですが、本書は、仕事をするということについて、最も要領良くコンパクトにまとめられているのではないかと思える著作です。若い人から、リーダーと呼ばれる立場の人まで、役に立つ内容となっています。
 「デキル人になる…」みたいな派手な本ではなく、自分の仕事を堅実に積み上げて成長していきたい人のために書かれた入門書です。

 

(哉)

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