| 「ペット・サウンズ」「嫉妬」 | 2008年10月 |
「ペット・サウンズ」
ジム・フリージ 著/村上春樹 訳 株式会社新潮社 発行
60年代中盤、イギリスのビートルズと人気を二分していたアメリカのバンド、ビーチボーイズ。本書は、そのリーダー、ブライアン・ウィルソンの音楽と半生を、作家ジム・フリージが回顧して綴ったもの。
本書のタイトル「PET SOUNDS」は、ビーチボーイズの同名のアルバムから採られている。ビートルズの「Sgt.Paper's Lonly Heart Club Band」の先駆となる刺激に満ちた作品で、ロックの最高傑作アルバムと呼び名も高い。しかし、それは、ビーチボーイズの作品というよりも、リーダーであるブライアン・ウイルソンがスタジオミュージシャンを指揮して作り上げた、ソロワークに近いものであった。しかし、そのとき彼は、心身ともに危機的な状況に直面して苦しんでいた。
ドラッグに溺れ、心身に異常をきたしながらも、ブライアンは、なぜ、「PET SOUNDS」を作り上げねばならなかったのか。スタジオにこもって自分の音を彫琢する、神に選ばれたミュージシャンの生き様に、読むものは圧倒されるだろう。
「嫉妬」
アニー・エルノー 著/堀茂樹・菊地よしみ 訳 株式会社早川書房 発行
いったん「嫉妬」という感情にとりつかれたら、やっかいだ。その感情が思考を占領し、行動を規定する。フランスの作家らしく乾いた文体で、そんな状況が描き込まれた本書、頁を繰る指がひりひりする。「毒をもって毒を制する」とは本書のためにあるような言葉だ。
(哉)
| 「ブッダが贈る15のことば 智慧のことばを名曲にのせて」 | 2008年09月 |
「ブッダが贈る15のことば 智慧のことばを名曲にのせて」
オーディオブック(佼成出版社)
ダウンロードして携帯音楽プレーヤーで聴くのは、音楽だけではありません。朗読された本、いわゆるオーディオブックも、携帯のプレイヤーと非常に相性が良いのです。たとえば本作…。
「知恵の有無より、自分に与えられた仕事をどれだけ誠実にこなしているか」、「人と比較するのを止める」、「自分と対話し自分の人生をゆっくり歩んで行く」、「今ここを大切に」、「人に期待してばかりいず、自ら率先して行動で示す」、「自分で自分の価値を決めてしまう前に、自分の能力を最大限に活かすにはどうすれば良いか考え、アクティブに生きる」、「他人の目的のために、自分の目的を捨て去ってはならない」、「回りの意見に左右されず、真実を語り、自分のなすべきことを行う」、「勝敗という価値観を捨て、本当の安らぎとは何かを模索する」、「変化はあたりまえと腹をくくる」、「自らをよりどころとせよ」
生きて行く勇気がわいてくるような内容が、クラシック音楽をバックにかんで含めるように語りかけられます。寝る前にベッドに横になって聴く。お昼休みに、お気に入りの喫茶店で、コーヒーカップを片手に聴く。ページをめくる必要もなく、最高の気分転換となることでしょう。
(哉)
| 「忘れられた日本人」 、「風の人宮本常一」 | 2008年08月 |
「忘れられた日本人」
宮本常一著 岩波文庫 発行
「風の人宮本常一」
佐田尾信作著 みずのわ出版 発行
最も印象深かった章は『土佐源治』(盲目の馬喰の老人が自身の女性遍歴を語る)。芝居となり、坂本長利という役者が40年間にわたって1000回以上も演じつづけておられるということです。
各地の方言で語られた老人たちの昔話や、昭和30年以前に宮本氏が撮影した写真を眺めていると、体験はしていないのに懐かしい。本書のページを繰りながらノスタルジーに浸ってしまいました。
「風の人 宮本常一」は、宮本氏といろいろなかたちで係わってきた人々を丹念に取材して、『宮本常一』という人にせまった労作です。『宮本常一』とこんなにも真摯に向き合っている人たちがいる! 上記のように宮本氏の本を読んでノスタルジーに浸っていた私は、恥ずかしくなりました。
じつは、坂本長利氏の芝居についは、本書で知りました。宮本常一をめぐる世界自体が面白い。今まで民族学など学んだこともない私ですが、本書に刺激されて、『宮本常一』という現象にはまってしまいそうです。
(哉)
| 「硝子戸の中」、「調査されるという迷惑」 | 2008年07月 |
「硝子戸の中」
夏目漱石著 株式会社岩波書店 発行
「調査されるという迷惑」
安渓遊地著 みずのわ出版 発行
ところで、いま手に取っておられる、このささやかな印刷物の裏面は「舟入散歩」という企画になっています。これは、社内にこもりっきりで仕事をするのではなく、外に出て地元と積極的に関わって、視野・仕事の幅を広げようとする試みの一つです。言わば「硝子戸の中」とは逆の行き方です。
その取材中、あらかじめ記事にまとめやすいカタチを思い描いて、人の話を聞くことがあります。これはマスメディアのやらせにつながる危険な考え方かもしれないと、なんとなく感じてはいたのですが、安渓さんのブックレットを読んで、あらためて身の引き締まる思いがしました。
(哉)
| 「孤独な少年の部屋」 | 2008年06月 |
中島義道 著 角川グループパブリッシング 発行
カイコが自分の吐いた糸で繭を紡ぐように生み出された、少年時代の中島氏の創作物にまつわる思い出が語られています。空想を織り交ぜて描かれた地図、偏執狂的な緻密さで書かれた観察記録やノート類、涙をぬぐいながらホルマリンの注射を虫たちに施して作製した昆虫標本、模造紙に書いた10mを超える歴史年表…。そして、たぶん著者の他の著作で深くは言及されたことが無かった、子供時代の家族と友人たちのエピソード。
本書で見られる中島氏ほどすごいものではなかったのですが、頁を繰りながら、純白で真摯だった少年時代の自分をなつかしく思い出しました。
(哉)
| 蜘蛛の糸は必ず切れる | 2008年05月 |
諸星 大二郎 著 株式会社 講談社 発行
著者の諸星大二郎氏は漫画家で、本書は二冊目の小説集(一冊目は「キョウコのキョウは恐怖の恐」)。漫画家だからか、文章がビジュアルでわかりやすい。もっとも、彼の漫画は、文章の量も多いし、着想の面から見ても文学的な傾向があるので、小説の執筆は自然の流れ。漫画と小説がクロスオーバーする作家といえるだろう。
いつ来るかわからない船を待つ人々の心情を粘っこくと描き込んだ「船を待つ」、不思議なOLが不可思議な生活を語る「いないはずの彼女」、同窓会で徐々に暴れて行く男の秘められた過去(「同窓会の夜」)、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の大胆な変奏曲「蜘蛛の糸は必ず切れる」。四つの中短編が収められた本書は、人の心の闇にたらされた銀色に光る蜘蛛の糸かもしれない。
蜘蛛の糸を表現した線が表紙~扉~目次と続く等、しゃれた装丁も本書の魅力。
(哉)
| 「B型 自分の説明書」 | 2008年04月 |
Jamais Jamais 著 株式会社文芸社 発行
「まわりがやる気満々だとやる気しない。」
「まわりがやる気ないと、がぜんやる気。」
「地味でめんどくさい作業を楽しめる。」
「自分の居場所の中で「1人になれる空間」を探しちゃう。」
「価値あるモノに価値をつけない。」
「価値ないモノに価値をつける。」
「欠点を指摘されて一応悩んでみるけど、直す気はさらさらナイ」
引用していくときりがない。
極めつけは、
「右と言われれば左と言う。それが基本。」
B型の人もそうでない方も、ぜひ本書を一読されることをおすすめします。B型の人は、他の人に迷惑をかけないために。
他の血液型の人は、B型への思いやりを持ちつつ、B型の人に振り回されないために。
(哉)
| 「求めない」、「LIFE」 | 2008年03月 |
加島祥造 著 「求めない」(株式会社小学館 発行)、「LIFE」(株式会社パルコ発行)
引きこもり生活も煮詰まり、私は普通の人よりも10年遅れて、社会に出ることになりました。自宅と会社を往復する生活を続けているうちに、世間擦れしたと同時に、社会に出るまでは考えても見なかったような悩みを抱くはめになりました。そして、それは解決されることなく、自分の中で負のスパイラルを描くばかり。
「求めない すると」…「いま持っているものが いきいきとしてくる」、「自分の声が聞こえてくる」…。(「求めない」より)
かつて、すばらしい英米文学の翻訳で人生というものを疑似体験させてくれた著者が、今度は前とは異なるゆるやかな語り口で、私を励ましてくれているような感じがしました。
「自分がいま ここに在る そのことに 驚ろくとき 君は生きているのだ」(「LIFE」より) (哉)
| TAKEO DESK DIARY 2008 | 2008年02月 |
株式会社 竹尾 発行
【年間】と【見開き1ヶ月】のデスクダイアリーですが、紙の販売をしている会社と美術家・詩人・作家とコラボレートして制作されたものだけに、一般のダイアリーとは一線を画したものになっています。あたかも展覧会の図録とかアーティストの作品集といった趣です。
毎年テーマを決めて制作されているこのTAKEO DESK DIARY 2008年版は「紙と言葉の十二宮」。デザイナー・アートディレクター・アーティストといった多彩な顔を持つ立花文穂氏をまとめ役に、谷川俊太郎、別役実といった詩人や作家の「言葉」がちりばめられグラフィックな表現と融合させた図版が盛り込まれています。
日記帳というよりも美術品のようなこのダイアリーに、日常の出来事やスケジュールを書き込むのには勇気がいります。私は、昨年も一昨年もこのTAKEO DESK DIARYを購入しました。でも、自分のペンで汚してしまってはこの美しいものが台無しになってしまうと躊躇しつつ、結局何も書けないまま終わってしまいました。でも、今年は、思い切って元日からこのダイアリーに筆をおろしてみたのです。それからこのダイアリーを開くたびに、罪悪感とぜいたくな気分が入り交じった不思議な気分の高揚を味わっています。いわば、ベンツで近所のコンビニに買い物に行くような感じでしょうか。
(哉)
| ワインバーグの文章読本 自然石構築法 | 2008年01月 |
ジェラルド・M・ワインバーグ 著
伊豆原弓 訳 株式会社翔泳社発行
人の話を聞いたり、様々な物を見たりして浮かんだアイデアを自然に転がっている「石」に見立て、文章を書くということを自然石を使って「石垣」を組むことに例えて語る文章作成の指南書。少しばかり皮肉っぽい文章がおもしろいです。
自分の書きたいものだけを書きなさいという本書の主張は、どちらかというと会社の中で作成する固い文書にはなじまないかもしれませんが、方法論としては使えるでしょう。手元にいつもメモできるツールを用意して、見つけた「石」を書きとめ、こんな「石垣」にしようという目的(構想)に添った「石」を選んで「積み」あげていく。とりあえず使えそうにない石は、いつか使うときのためにストックしておきなさいとのこと。この「石」には色々な種類があり、「時間」という石もあると著者は言います。細切れの時間をいかに有効に使って石垣を組んでいくかという問題です。
ポイントは、石を集めること。自分の気持ちに合った石を見い出し、組んだ石垣は、自然と個性的になると、著者は言います。私もさっそくペンとメモ帳を携帯するようになりました。
(哉)



