| ちょいな人々 | 2009年05月 |
荻原 浩 著
株式会社文藝春秋 発行
●社長の気まぐれで、カジュアルな服装での出勤を命じられた印刷会社の社員たち。営業部部長の誠一は、若いOLからの評価に一喜一憂し、振り回されるはめに(『ちょいな人々』)。
●ガーデニングが趣味の女性と庭いじりの好きな老人が、虫やら猫の糞やらをめぐって丁々発止(ガーデンウォーズ)。
●さえない男がカリスマ占い師になってしまったら(『占い師の悪運』)。
●子供のいじめの相談に電話で対応する聡子たち「大人」。子供からの相談に対して過激に対応する聡子は徐々に仲間たちから浮いてゆく(『いじめ電話相談室』)。
●犬や猫に人間の言葉をしゃべらせるという「大人の玩具(がんぐ)」や、指を使わず話すだけで、その時の気分を反映したメールを送ることができる携帯を開発したおもちゃ会社。彼らの先進的なビジネスの行方は?(『犬猫語完全翻訳機』、『正直メール』)。
●治美の、婚約者は熱狂的なタイガースファン、父は巨人「命」な人…(『くたばれ、タイガース』)。
作者の手帳には、こんなメモがずらっと書いてあるのかもしれない。このネタなら、おもしろくないわけがない。この短編集を読んで、日常の生活も、少し視点を変えて、オーバーに捉えてみたら楽しくなりそうな気がした。
それにしても、若い子に「その服ステキ」と言われたら、私はおそらく、いや確実に『ちょいな人』になるだろう。
(哉)
| PAPER'S/ロマンチック保存装置 | 2009年04月 |
「PAPER'S」は、紙の開発から販売まで手がけている総合商社 株式会社 竹尾が発行している紙に関する情報を掲載した小冊子。「ロマンチック保存装置」は、王子製紙株式会社のOUJI PAPER LIBRARYで配布されているリーフレット。どちらも紙とデザインと印刷が渾然一体となった宝石のような印刷物だ。
両社ともエコロジーへの取り組みに積極的で、この二つの印刷物からもその努力を知ることができる。「PAPER'S 2007 No.26」の記事によると、竹尾は「森林認証」という制度に着目されているそうである。それは、「きちんと管理されていると認められた森から木材を切り出し、加工・流通・販売まで適切な認証を受けた業者や工場によって加工されたものだと認定する制度」で、「森をみんなで健康に保とうという気持ちを共有すること」だという。竹尾は、日本の紙卸流通業では初めて世界的規模での森林認証を取得した会社であるらしい。
一方、王子製紙株式会社は、「ロマンチック保存装置 #6 完全版」で、(王子製紙の工場の中で)「ほぼ100%古紙だけを原料として印刷用紙を造っている」富士工場での古紙再生への取り組みを語っている。古紙を高い割合で含んだ原料をもとに製紙するとき、品質維持と製造効率を両立させるのは大変なことで、現場の方々は、日々、努力を重ねられているという。
「PAPER'S」と「ロマンチック保存装置」。両社がそれぞれの立場から環境について考え、環境保護に取り組んでおられるということと、これらの宝物のような印刷物を発行されていることとは無関係ではないだろう。
ところで、当社も印刷会社の立場からエコロジーを目指している。たとえば、印刷のインクには自然にやさしい大豆インクの使用を心がけているし、印刷用の紙として可能な限り再生紙の使用をお客様に推奨し、自社の企画物にもエコな紙を使用している。また、電力・水の消費量やゴミの排出量を測定し削減したり、社内での啓蒙活動、会社周辺の清掃等といった取り組みが評価され、平成19年12月には広島県内の印刷会社では初めてとなる「エコアクション21」の認証をいただいた。ちなみに、本紙も大豆インクとエコGという再生紙を使用している。
(哉)
| 白 魔 | 2009年03月 |
マッケン 著 南條 竹則 訳 光文社古典新訳文庫
イギリスの小説家アーサー・マッケン(1863~1947)の中・短編小説集。最も惹かれたのは「生活のかけら」という中編だ。
19世紀末のロンドン。主人公のダーネルは金融の中心街で働き、親戚からの贈与も受けて妻と平凡だが物質的には不自由のない生活を営んでいる。しかし、以前から迷路のような路地を散策するのが好きだったダーネルは、普通の人には見えない日常の背後にある世界、幻視の街をさまようことに快感を覚えるようになる。同時に一族に伝わる古文書の解読に没頭し、彼の異常な精神生活に拍車がかかる。あげくの果てには、路地裏にある異端の教団に入信してしまう。小説は、そんな彼の古代回帰を志向した不思議な詩と、退屈な日常から本来あるべき理想郷に法悦の境地で飛び込んで行ったことを暗示する文章で終わる。
わかりにくい小説(私のこの紹介文もわかりにくいかもしれないが)だが、こんな感覚ではないかと思える体験が、ひとつある。 郊外に向かうバスに乗ってぼんやりと車窓を眺めていたときのことだ。しゃれた外見の郵便局の脇に低い木が茂っている一角があった。その枝の下には小さな川が流れているのが見えた。その場所以外は暗渠になっていて、あたりは旧市内とほとんど変わらないくらい宅地化されている。しかし、私は、そこが街と田舎の境目だと確信した。隠されてはいるけれども、そこは時の裂け目で、大昔からの土地が顔をのぞかせている。そんな気がしてならなかった。ダーネルが飛び込んで行った世界は、そんな裂け目の中にのぞいている世界なのではないだろうか。
(哉)
| 『アイデアのちから』『脳と気持ちの整理術』 | 2009年02月 |
『アイデアのちから』
チップ・ハース、ダン・ハース 著
飯岡美紀 訳 日経BP社発行
・単純明快である、・意外性がある、・具体的である、・信頼性がある、・感情に訴える、・物語性がある。
この6項目に即して、具体的なエピソードを紹介しながら、記憶に焼きつくアイデアを生み出す方法を提示したのが本書だ。
一読した後、世の中でもてはやされている商品やCMのキャッチコピーなどを思い浮かべてみると、たしかに、本書の6項目のすべて、あるいはいくつかを満たしていることがわかる。
各章に設けられた「アイデア・クリニック」というコラムは、例文を提示し、それを人の心により響くものに変えていくようなものにする趣向。表現力を鍛える格好のドリルとなっている。
本紙、特に裏面になっている「舟入散歩」作成のヒントをもらえそうな気がして、思わず購入してしまった。
『脳と気持ちの整理術 意欲・実行・解決力を高める』
築山節 著 NHK出版 生活人新書
個人的な感想だが、仕事力アップを目指した本は、どれも読んでいて疲れるような気がする。自分が最高だと思っているノウハウを伝授しようという姿勢で語ってくる著者とこちらの思考が戦ってしまうせいかもしれない。
しかし、本書は、「脳」というものの特性を踏まえて、脳というものの力を引き出すためにはこうしたほうがいいよ、というおだやかなスタンスで書かれているせいか、アドバイスがすんなりと頭に入ってくる。まさに脳に優しい本。
各章の終わりに、ポイントがまとめられているのもありがたい。「できることが増えると好きになる」、「五歩先に解決がある問題の一歩目をまず見つけよう」というように。
本書を読んだら、悩むより、とりあえずしっかり寝て頭を休めよう、とわりきれるようになった。
(哉)
| 『印刷物の考現学』『編集者!』 | 2009年01月 |
『印刷物の考現学』
田中正明 著 オフィスリテロ 発行
ポスター、カタログ、切符、切手、カレンダー、絵はがき…etc.世の中はさまざまな印刷物であふれかえっている。本書は、【1976年~1981年】と【1996年~2000年】の2期にわたって、「印刷雑誌」という雑誌に毎月掲載されたエッセイをまとめたもの。デザイナーである著者が、気になる印刷物を取り上げ、その印刷物の風合いを社会的考察をまじえながら述べている。著者の海外行きをはさんで2部に分かれているが、後半では印刷のデジタル化が大幅に進んでいる様子がわかる。
「テレカ・デザイン学というものを(中略)じっくりと考えてみるべきものと思っている」と現在では懐かしいものになってしまったテレホンカードについて書かれているのも興味深い。
地域の広報誌など地味な印刷物にも目を向けられているのがうれしい。この「インフォメーション」も今の世の中に現れた「印刷物」の一つ、真摯に取り組まなくてはと、あらためて思った。
『編集者!』
花田紀凱 著 ワック株式会社 発行
『文藝春秋』『週刊文春』など数々の雑誌のデスク、編集長を経て、現在は『WILL』の編集長である花田氏。経歴が経歴だけに、作家や有名人の裏話満載。作家のもとへ原稿の催促に通い詰めた新人編集者時代。脂が乗りきってからは、政界・財界を相手に回してスクープを連発。本書は、著者がこれまで形にしてきた雑誌や週刊誌をぎゅっと圧縮して一冊にしたような本だ。
題を見て、ベテラン編集者による編集の心得が書いてある本かと思い、手に取ったが、編集者の心意気が詰め込まれた本書は、ハウツー本などというやわなものではなかった。派手にレイアウトされたタイトルが宣言しているように。
(哉)
| 「職人学」 | 2008年12月 |
「職人学」
小関智弘 著 株式会社講談社
小関さんは、約50年にわたって旋盤工として働きながら、作家としてもご活躍され、町工場を取材したノンフィクションや小説を書いてこられた方。本書は、氏のお仕事のエキスのような内容になっている。見て、聞いて、実践されてきた人だけが書ける、現場で働く者の心意気と熱い血の通った『仕事論』・『人生論』といえるだろう。
「機械にニンベンをつける」とは、小関さんがよく書かれることの一つだ。一つの仕事が工夫次第でやりやすくなり、生産効率が高まる。不可能に思えた仕事が、あっけなくできてしまう。そんな意味のことを「職人語」で表現したものだ。
新しい技術が導入されて、一見時代遅れの用済みなものと見なされそうな技術が、経験を積んだ職人の手によって現代のハイテク技術を支えているという例は数多い。また、若い世代の新しい技術と職人たちの経験値がコラボレートして、すばらしい物が生み出される場合もある。町工場で金属を加工したことのない者にも、小関さんの文章は説得力を持って迫ってくる。
また、氏が取材の過程で再会した、かつて共に働いた仲間たちの積み重ねてきたもの失ったもの…。「人生」という地層の断面を、小関さんの筆は鮮やかに描き出す。
(哉)
| 「いぬ会社」 「いい仕事の仕方」 | 2008年11月 |
「いぬ会社」
そにしけんじ 著 竹書房 発行
〔キャラクターがカワイイ!〕
書店でこの表紙を見かけたら、店員さんに見つからないように、そっとカバーを外してみて下さい。パグの佐藤君とチワワの鈴木君が泣く泣く書かされた始末書が載っています。そのユーモアに笑ってしまうと同時に、私のような佐藤・鈴木両君に近い社員にとって文書見本として参考になりそうな気がしました。
ところで、もし、あなたの上司がとても恐い人だとしても、いぬ会社営業3課のブルドッグの部長よりはましなのではないでしょうか。なにしろ、ブルドッグの部長は部屋にいるときは鎖でつながれているということなのですから。
犬の習性と会社に出て働くということが、うまくミックスされた楽しい漫画集です。
「いい仕事の仕方」
江口克彦 著 PHP新書
〔にんげんのかいしゃにつとめる あなたへ〕
自己啓発書オタクを自認する私ですが、本書は、仕事をするということについて、最も要領良くコンパクトにまとめられているのではないかと思える著作です。若い人から、リーダーと呼ばれる立場の人まで、役に立つ内容となっています。
「デキル人になる…」みたいな派手な本ではなく、自分の仕事を堅実に積み上げて成長していきたい人のために書かれた入門書です。
(哉)
| 「ペット・サウンズ」「嫉妬」 | 2008年10月 |
「ペット・サウンズ」
ジム・フリージ 著/村上春樹 訳 株式会社新潮社 発行
60年代中盤、イギリスのビートルズと人気を二分していたアメリカのバンド、ビーチボーイズ。本書は、そのリーダー、ブライアン・ウィルソンの音楽と半生を、作家ジム・フリージが回顧して綴ったもの。
本書のタイトル「PET SOUNDS」は、ビーチボーイズの同名のアルバムから採られている。ビートルズの「Sgt.Paper's Lonly Heart Club Band」の先駆となる刺激に満ちた作品で、ロックの最高傑作アルバムと呼び名も高い。しかし、それは、ビーチボーイズの作品というよりも、リーダーであるブライアン・ウイルソンがスタジオミュージシャンを指揮して作り上げた、ソロワークに近いものであった。しかし、そのとき彼は、心身ともに危機的な状況に直面して苦しんでいた。
ドラッグに溺れ、心身に異常をきたしながらも、ブライアンは、なぜ、「PET SOUNDS」を作り上げねばならなかったのか。スタジオにこもって自分の音を彫琢する、神に選ばれたミュージシャンの生き様に、読むものは圧倒されるだろう。
「嫉妬」
アニー・エルノー 著/堀茂樹・菊地よしみ 訳 株式会社早川書房 発行
いったん「嫉妬」という感情にとりつかれたら、やっかいだ。その感情が思考を占領し、行動を規定する。フランスの作家らしく乾いた文体で、そんな状況が描き込まれた本書、頁を繰る指がひりひりする。「毒をもって毒を制する」とは本書のためにあるような言葉だ。
(哉)
| 「ブッダが贈る15のことば 智慧のことばを名曲にのせて」 | 2008年09月 |
「ブッダが贈る15のことば 智慧のことばを名曲にのせて」
オーディオブック(佼成出版社)
ダウンロードして携帯音楽プレーヤーで聴くのは、音楽だけではありません。朗読された本、いわゆるオーディオブックも、携帯のプレイヤーと非常に相性が良いのです。たとえば本作…。
「知恵の有無より、自分に与えられた仕事をどれだけ誠実にこなしているか」、「人と比較するのを止める」、「自分と対話し自分の人生をゆっくり歩んで行く」、「今ここを大切に」、「人に期待してばかりいず、自ら率先して行動で示す」、「自分で自分の価値を決めてしまう前に、自分の能力を最大限に活かすにはどうすれば良いか考え、アクティブに生きる」、「他人の目的のために、自分の目的を捨て去ってはならない」、「回りの意見に左右されず、真実を語り、自分のなすべきことを行う」、「勝敗という価値観を捨て、本当の安らぎとは何かを模索する」、「変化はあたりまえと腹をくくる」、「自らをよりどころとせよ」
生きて行く勇気がわいてくるような内容が、クラシック音楽をバックにかんで含めるように語りかけられます。寝る前にベッドに横になって聴く。お昼休みに、お気に入りの喫茶店で、コーヒーカップを片手に聴く。ページをめくる必要もなく、最高の気分転換となることでしょう。
(哉)
| 「忘れられた日本人」 、「風の人宮本常一」 | 2008年08月 |
「忘れられた日本人」
宮本常一著 岩波文庫 発行
「風の人宮本常一」
佐田尾信作著 みずのわ出版 発行
最も印象深かった章は『土佐源治』(盲目の馬喰の老人が自身の女性遍歴を語る)。芝居となり、坂本長利という役者が40年間にわたって1000回以上も演じつづけておられるということです。
各地の方言で語られた老人たちの昔話や、昭和30年以前に宮本氏が撮影した写真を眺めていると、体験はしていないのに懐かしい。本書のページを繰りながらノスタルジーに浸ってしまいました。
「風の人 宮本常一」は、宮本氏といろいろなかたちで係わってきた人々を丹念に取材して、『宮本常一』という人にせまった労作です。『宮本常一』とこんなにも真摯に向き合っている人たちがいる! 上記のように宮本氏の本を読んでノスタルジーに浸っていた私は、恥ずかしくなりました。
じつは、坂本長利氏の芝居についは、本書で知りました。宮本常一をめぐる世界自体が面白い。今まで民族学など学んだこともない私ですが、本書に刺激されて、『宮本常一』という現象にはまってしまいそうです。
(哉)



