| 「硝子戸の中」、「調査されるという迷惑」 | 2008年07月 |
「硝子戸の中」
夏目漱石著 株式会社岩波書店 発行
「調査されるという迷惑」
安渓遊地著 みずのわ出版 発行
ところで、いま手に取っておられる、このささやかな印刷物の裏面は「舟入散歩」という企画になっています。これは、社内にこもりっきりで仕事をするのではなく、外に出て地元と積極的に関わって、視野・仕事の幅を広げようとする試みの一つです。言わば「硝子戸の中」とは逆の行き方です。
その取材中、あらかじめ記事にまとめやすいカタチを思い描いて、人の話を聞くことがあります。これはマスメディアのやらせにつながる危険な考え方かもしれないと、なんとなく感じてはいたのですが、安渓さんのブックレットを読んで、あらためて身の引き締まる思いがしました。
(哉)
| 「孤独な少年の部屋」 | 2008年06月 |
中島義道 著 角川グループパブリッシング 発行
カイコが自分の吐いた糸で繭を紡ぐように生み出された、少年時代の中島氏の創作物にまつわる思い出が語られています。空想を織り交ぜて描かれた地図、偏執狂的な緻密さで書かれた観察記録やノート類、涙をぬぐいながらホルマリンの注射を虫たちに施して作製した昆虫標本、模造紙に書いた10mを超える歴史年表…。そして、たぶん著者の他の著作で深くは言及されたことが無かった、子供時代の家族と友人たちのエピソード。
本書で見られる中島氏ほどすごいものではなかったのですが、頁を繰りながら、純白で真摯だった少年時代の自分をなつかしく思い出しました。
(哉)
| 蜘蛛の糸は必ず切れる | 2008年05月 |
諸星 大二郎 著 株式会社 講談社 発行
著者の諸星大二郎氏は漫画家で、本書は二冊目の小説集(一冊目は「キョウコのキョウは恐怖の恐」)。漫画家だからか、文章がビジュアルでわかりやすい。もっとも、彼の漫画は、文章の量も多いし、着想の面から見ても文学的な傾向があるので、小説の執筆は自然の流れ。漫画と小説がクロスオーバーする作家といえるだろう。
いつ来るかわからない船を待つ人々の心情を粘っこくと描き込んだ「船を待つ」、不思議なOLが不可思議な生活を語る「いないはずの彼女」、同窓会で徐々に暴れて行く男の秘められた過去(「同窓会の夜」)、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の大胆な変奏曲「蜘蛛の糸は必ず切れる」。四つの中短編が収められた本書は、人の心の闇にたらされた銀色に光る蜘蛛の糸かもしれない。
蜘蛛の糸を表現した線が表紙~扉~目次と続く等、しゃれた装丁も本書の魅力。
(哉)
| 「B型 自分の説明書」 | 2008年04月 |
Jamais Jamais 著 株式会社文芸社 発行
「まわりがやる気満々だとやる気しない。」
「まわりがやる気ないと、がぜんやる気。」
「地味でめんどくさい作業を楽しめる。」
「自分の居場所の中で「1人になれる空間」を探しちゃう。」
「価値あるモノに価値をつけない。」
「価値ないモノに価値をつける。」
「欠点を指摘されて一応悩んでみるけど、直す気はさらさらナイ」
引用していくときりがない。
極めつけは、
「右と言われれば左と言う。それが基本。」
B型の人もそうでない方も、ぜひ本書を一読されることをおすすめします。B型の人は、他の人に迷惑をかけないために。
他の血液型の人は、B型への思いやりを持ちつつ、B型の人に振り回されないために。
(哉)
| 「求めない」、「LIFE」 | 2008年03月 |
加島祥造 著 「求めない」(株式会社小学館 発行)、「LIFE」(株式会社パルコ発行)
引きこもり生活も煮詰まり、私は普通の人よりも10年遅れて、社会に出ることになりました。自宅と会社を往復する生活を続けているうちに、世間擦れしたと同時に、社会に出るまでは考えても見なかったような悩みを抱くはめになりました。そして、それは解決されることなく、自分の中で負のスパイラルを描くばかり。
「求めない すると」…「いま持っているものが いきいきとしてくる」、「自分の声が聞こえてくる」…。(「求めない」より)
かつて、すばらしい英米文学の翻訳で人生というものを疑似体験させてくれた著者が、今度は前とは異なるゆるやかな語り口で、私を励ましてくれているような感じがしました。
「自分がいま ここに在る そのことに 驚ろくとき 君は生きているのだ」(「LIFE」より) (哉)
| TAKEO DESK DIARY 2008 | 2008年02月 |
株式会社 竹尾 発行
【年間】と【見開き1ヶ月】のデスクダイアリーですが、紙の販売をしている会社と美術家・詩人・作家とコラボレートして制作されたものだけに、一般のダイアリーとは一線を画したものになっています。あたかも展覧会の図録とかアーティストの作品集といった趣です。
毎年テーマを決めて制作されているこのTAKEO DESK DIARY 2008年版は「紙と言葉の十二宮」。デザイナー・アートディレクター・アーティストといった多彩な顔を持つ立花文穂氏をまとめ役に、谷川俊太郎、別役実といった詩人や作家の「言葉」がちりばめられグラフィックな表現と融合させた図版が盛り込まれています。
日記帳というよりも美術品のようなこのダイアリーに、日常の出来事やスケジュールを書き込むのには勇気がいります。私は、昨年も一昨年もこのTAKEO DESK DIARYを購入しました。でも、自分のペンで汚してしまってはこの美しいものが台無しになってしまうと躊躇しつつ、結局何も書けないまま終わってしまいました。でも、今年は、思い切って元日からこのダイアリーに筆をおろしてみたのです。それからこのダイアリーを開くたびに、罪悪感とぜいたくな気分が入り交じった不思議な気分の高揚を味わっています。いわば、ベンツで近所のコンビニに買い物に行くような感じでしょうか。
(哉)
| ワインバーグの文章読本 自然石構築法 | 2008年01月 |
ジェラルド・M・ワインバーグ 著
伊豆原弓 訳 株式会社翔泳社発行
人の話を聞いたり、様々な物を見たりして浮かんだアイデアを自然に転がっている「石」に見立て、文章を書くということを自然石を使って「石垣」を組むことに例えて語る文章作成の指南書。少しばかり皮肉っぽい文章がおもしろいです。
自分の書きたいものだけを書きなさいという本書の主張は、どちらかというと会社の中で作成する固い文書にはなじまないかもしれませんが、方法論としては使えるでしょう。手元にいつもメモできるツールを用意して、見つけた「石」を書きとめ、こんな「石垣」にしようという目的(構想)に添った「石」を選んで「積み」あげていく。とりあえず使えそうにない石は、いつか使うときのためにストックしておきなさいとのこと。この「石」には色々な種類があり、「時間」という石もあると著者は言います。細切れの時間をいかに有効に使って石垣を組んでいくかという問題です。
ポイントは、石を集めること。自分の気持ちに合った石を見い出し、組んだ石垣は、自然と個性的になると、著者は言います。私もさっそくペンとメモ帳を携帯するようになりました。
(哉)
| 不思議なほどうまくいく人 | 2007年12月 |
メッテ・ノルガード 著
柴田昌治 訳 三笠書房発行
会社や学校で浮いているなと感じたときは、アンデルセンの「みにくいアヒルの子」のストーリーを思い出しましょう。みんなからばかにされ、変なアヒルだと思われていた主人公は、ある日水面に映った自分の姿を見て驚きます。そこには真っ白な美しい鳥が自分を見つめ返していたのですから。
「自分の能力を低く見ることは、自信を持つことよりも簡単です。だから、人は自分の本来の力を100%出し切れないのです」と著者は言います。
「失敗するのはかんたんです。学ぶのをやめればいいだけ。しかし、大きな成功を生むには、たくさんの小さな努力が必要です。毎日少しずつの発想の転換が素晴らしい実りをもたらします」とも。
純粋な心は、「みにくいアヒルの子」の白鳥のように、いつかきっと空高く羽を広げるときが来るでしょう。本書のくれたメッセージの数々を読んで、自分も白鳥になる日が訪れるかもしれないという勇気が湧いてきました。
(哉)
| じゃがいもの花 | 2007年11月 |
池 田 風 彦 著 (「今月の言葉」執筆者)
題字 :石原千穂子 挿絵 :折本千代子
本書は、このタニシインフォメーションに連載中の「今月の言葉」2003年の3月から2007年5月までの50本の文章をまとめたものです。その季節その月にちなんだ話題が綴られたコラムをまとめて読んでみると、風彦氏の博識に驚かされます。氏独特の飄々とした言い回しで語られている文章は、風彦流の歳時記、文明批判。B6(12.8×18.2cm)のハンディな本書ですが、視野の広い本なのです。
それにしても、このインフォメーションの作成に関係している者として、「じゃがいもの花」を発行させていただけたことは、とても感慨深いものがあります。毎月のインフォメーションの作成は、まず風彦さんからファックスで送られてくる「今月の言葉」の原稿を入力する作業で始めてきたわけですから。
(哉)
| オトナの片思い | 2007年09月 |
石田衣良、他 著
角川春樹事務所 発行
タイトルが良い。本書は短編を集めたアンソロジーですが、この「オトナの片思い」という題名が、本書の中で最もよく出来た作品じゃないかと思います。学校の先生が見たら、即座に、〔大人の片思いと子供の片思いの違いを200字以内で述べよ〕という設問が浮かんでくるかもしれません。
書店に平積みしてある本書を手にとった人は、表紙をじっと見つめながら考えるにちがいありません。『あの時の私の片思いは…』思わず携帯を取り出して、彼の電話番号を表示させてみようとするけれども、残念、ない。それは、あの日あの時、覚悟を決めて消去のボタンを押してしまったのだから。
日本の人口は127,767,994人(国勢調査 平成17年10月1日)、世界の人口は2007年7月現在の推計で66億人。地球上で、これだけの人が、この瞬間にも、だれかに片思いをしてそれが満たされず切ない思いをしている(赤ちゃんだって、欲しいときにおっぱいがないことだってあるでしょ)、地球ってなんていとおしい星なんでしょう。そんなせつない星「地球」だからこそ生れた本だと思います。
(哉)



