キャタピラー 2010年09月

【監督】若松孝二
【出演】寺島しのぶ  大西信満 

 やはり寺島しのぶさんが強烈だった。戦場で手足をなくし芋虫のようになった夫に最初はただ恐れ従うだけ。やがて軍神の妻を演じる旨味も知り、村人から尊敬されるのを楽しみさえする。ただ、可哀相な戦争の被害者だけでなく、もっと狡猾にしたたかに生きぬこうとした庶民を、寺島さんがものすごい説得力でみせてくれた。その姿は美しくはないがリアルだし今生きる自分たちもその一員なのだ。
 対照的に、美しい日本の農村というコトバがぴったりくるのどかな風景。かつて当たり前のようにあったこの国の村々が当たり前のように戦争とくっついていた、その事実の重さ哀しさが実は一番衝撃だった。国際映画祭での受賞などセンセーショナルな話題以外でも観てほしい一本でした。 (NEO)

キネマ見ましょか

インセプション 2010年08月

【監督】クリストファー・ノーラン
【出演】レオナルド・デカプリオ  渡辺 謙

 他人の夢の話を聞くのはつまらない。少しも興味がわかないのだ。それは分かっているのに自分が見た夢は誰かに話したくなる。けれどその面白さは決して相手に伝わることはない。夢というファイルを開くことが出来るシステムは、見た者の頭の中にしか備わっていないようだ。
 この物語の主人公はそのシステムに侵入するハッカーだ。他人の夢に入り込み、潜在意識の中でその人間を操作しようとする。しかし皮肉なことに、侵入者である彼自身の潜在意識がその計画の邪魔をする。奇妙なバランスの風景や浮遊感でリアルに(?)創り出された夢の中の世界は、メビウスの輪の上に作られた迷路のような空間。そこから主人公は生還することが出来るのだろうか?居眠りして夢に侵入されないように注意して見守っていよう。
(nao)

キネマ見ましょか

17歳の肖像 2010年07月

【監督】ロネ・シェルフィグ
【出演】キャリー・マリガン ピーター・サースガード

 ‘60年代初めのイギリス。ラテン語がちょっと苦手な優等生ジェニーはオックスフォード大学を目指している。両親や教師の期待を受けながらも受験のためだけの生活に息苦しさも感じている。土砂降りの雨が降るある日、そんな生活を変えてくれる年上の男性が現れる。未知の世界に踏み出したジェニーの輝くような日々の始まりだった。
 いかにも裏の顔のありそうな男性と彼の友人達、妙に理解のある両親、頭の固い教師、そして恋を知ってどんどん変わっていくジェニー。誰もがはらはらするほど危なっかしくて、絶対うまくいく訳がないと思う。でもそれはこちらが観客だから。本人達にとって今の感情は真実なのだ。傍から見たら呆れるような脆い真実にしがみついているのはわたしたちも同じ。顰蹙をかう経験もいい勉強になったわ、と云いたげな主人公はやっぱりなかなかの優等生だ。(nao)

キネマ見ましょか

マイレージ、マイライフ 2010年06月

【監督】ジェイソン・ライトマン
【出演】ジョージ・クルーニー

 1年のほとんどの日を出張に費やす“リストラ宣告人”ライアン。G・クルーニーの演じる主人公は、最初とてもクールで最先端のビジネスマンに見える。ところがいまどきの若い女性が相棒になると、人情味のある古風な中年男性に見え始める。そして生意気に見えたこの相棒の女性は、徐々に憎めない愛らしい存在に思えてくる。こちらの印象が変わっていくように、主人公に絡む“大人の女性”も加えた三人の登場人物は、大陸を飛び回るにつれて心を変化させていく。
 所有物も対人関係も最低限に保つこと。映画の初め、それはそれで悪くない生き方だとライアンも観客も思っている。しかし人の心は人と関わらなければ変わらないということを、主人公と一緒に気が付いていく物語である。(nao)

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アリス・イン・ワンダーランド 2010年05月

【監督】ティム・バートン
【出演】ジョニー・デップ ミア・ワシコウスカ ヘレナ・ボナム=カーター

 少女の夢を描いた物語では「不思議の国のアリス」の方が「オズの魔法使い」より好きです。不思議の国の気味が悪くて訳の分からないところや、アリスがわがままで生意気なところがいいと思う。そんなアリスが成長してワンダーランドを再び訪れたら? というのがこの映画です。
 不思議の国は問題を抱えていました。それを打開する予言の書に書かれている勇者は自分…どうして私が? と戸惑いながら伝説の剣を手にした19歳のアリスの冒険が再び始まります。平和をもたらすために闘ったけれど、ワンダーランドでは“いつも大きすぎるか小さすぎる”アリス。本当の居場所を求めて次の冒険を始めるために、彼女はウサギの穴の向こうに戻っていくのでした。もしかしたらそこは、帽子屋のお茶会よりもクレイジーな世界なのかもしれません。(nao)

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シャーロック ホームズ 2010年04月

【監督】ガイ・リッチー
【出演】ロバート・ダウニーJr ジュード・ロウ レイチェル・マクアダ

 この映画のホームズはディア・ストーカーを被らない。ドクター・ワトソンとかなり派手な立ち回りもする。しかし従来のイメージを踏襲しないことが、彼の「名探偵」の眼を際立たせている。見終わった後もホームズの視線から逃れることができない気持ちにさせられるのだ。
 人は見えないものを恐れるし、見えないからこそ憧れを抱く。その見えないものを捉える眼を持つホームズは、恐れることも無い代わりに幸福な幻想に浸ることもないだろう。真実を見る時の彼の眼は自慢で輝いてはいない。真実と、それが見えてしまう自分への困惑と不愉快と哀れみが混ざった鈍い光を放っている。最先端の技術で建設中のタワーブリッジがそびえるロンドンの、繁栄の明かりもとどかない湿った暗い路地で。(nao)

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海角七号 君想う、国境の南 2010年03月

【監督】魏徳聖(ウェイ・ダーション)
【出演】范逸臣(ファン・イーチェン)  田中千絵  中 孝介

 1940年代の台湾、伝えることの出来なかった想いを込めた手紙が国境を越えました。時が経ち再び国境を超え21世紀の街に帰ってきた手紙を手にしたのは一人の青年。彼は都会で果たせなかったミュージシャンとしての夢を胸にしまい込んで、不機嫌に故郷で暮らしていました。
 やがて青年は心ならずも一度は捨てたギターを抱えます。地元のイベントのために結成されたバンドは寄せ集め、その上世話をする日本人女性は超高飛車・・・いらいらする彼ですが、あの手紙に見守られるように心が少しずつほぐれていきます。楽しい青春映画に、海風のように遠い日の記憶が香ります。手紙が届くべきひとに届く感動よりも、過去と現在は様々なひとの想いが重なり合いながら繋がっている、ということへのいとおしさを感じる映画でした。(nao)

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アバター 2010年02月

【監督】ジェームズ・キャメロン
【出演】シガニー・ウィーバー ゾーイ・サルダナ サム・ワーシントン

 初めての映画を見るたびに、スクリーンを通して今まで気付かなかったものの見方や、予想もしない創造物などに出会うことは新鮮な楽しみです。この映画は、3Dという映像技術でその楽しみを与えてくれました。
 パンドラという星で秩序を保って生活を送っているナヴィ達は、貴重な鉱物資源の採掘を目論む地球人によって危機にさらされています。パンドラに乗り込んだ地球人のアバター達はこの星を破滅させてしまうのでしょうか。
 美しい青空、緑の樹々、澄んだ水のパンドラの風景は立体映像によって本物の景色のように目の前に広がります。しかし映画の中の地球は、そんな自然の風景を失ってしまった星として描かれています。美しい風景は3D眼鏡をかけなければ見ることができない星では、映画の楽しみも無くなってしまうことでしょう。

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ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない 2010年01月

【監督】佐藤祐市
【監督】小池徹平/品川祐

 久々に泣いて笑って清々しい気分になれる映画を見た。まずタイトルからしてインパクトがある。これだけでなんだか過酷で辛い状況が伺える。今この大不況の中、ブラック会社と呼ばれる会社がいくつあるのだろうか?この映画ほどではなくとも、近い状況の中どれだけの人たちが自分の限界に挑戦し、必死に毎日を這い上がっているのか…。
 働かずして暮らせたらなんて誰しも一度は考えるだろう。しかし私達の生活は生きる事こそが、働く事であり、働く人々は戦士と化して毎日、戦場に出て様々な課題に奮闘している。そこは1人ではない、たくさんの仲間達がいる。時には衝突したり、話し合ったりしながら絆を深めている。そして過酷な状況に陥った時こそ皆、自分自身の中で限界を位置づけているのではないだろうか。では限界の先には何があるのか、それを越えた者だけが体験できる、自信と達成感に溢れ成長した自分に出会えるのではないだろうか。(B)

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正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 2009年12月

【監督】ウェイ・クラマー
【監督】ハリソン・フォード、レイ・リオッタ、アシュレイ・ジャッド、ジム・スタージェス

 アメリカ合衆国は移民の国、という。これを理解しておくことが小説や映画を鑑賞する上で重要だという。しかし一つの国に多くの民族が存在しているという状況を、日本に住む日本人の私は実感することができない。それどころか、日本人であることがどういうことなのか、把握することもできない。
 この映画の中で移民局のベテラン捜査官が見つめる一人ひとりの物語は、数枚の書類で片付けるには重過ぎるものだろう。1枚のグリーンカードのために多くの涙や血が流され、嘘や裏切りや二度と会えない別れが生まれる。中には要領よく規制をすり抜ける者もいるが、不法滞在者と呼ばれる彼らはみな、自分と祖国とのあり方を強く想っている。ここで示されているのは、遠い国の流浪の民の事情ではない。「この国に住むこの国の自分」を捉えることのできない私のような者に、国境を越える足の重さを刻み込む楔である。(nao)

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