BACK DROP KURDISTAN バックドロップ クルディスタン 2008年10月

【監督】野本 大

【出演】カザンキラン一家、他

 クルド人とは「国家を持たない世界最大の少数民族」。トルコ国内で建国しようと活動している人々は、トルコ国民から憎まれている。だから、トルコ国内に住むクルド人のほとんどは、建前上トルコの政策を受け入れ、表面的にはクルドの精神を放棄し、トルコに迎合して生きていく道を選ぶ。それを潔しとしないクルド人たちは、国内にとどまりゲリラとなるか、国外に逃亡して「難民」となる。
 この映画は、難民として日本にたどり着いたカザンキラン一家を追ったドキュメント。難民受け入れに対して慎重な日本政府の態度に失望したザンキラン家の人たちは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の前で有志の日本人たちと座り込みのデモを始める。いったんはUNHCRから「難民」の認定を受けた一家だったが、ある日突然、父親と長男が捕縛され本国へ強制送還される。
 映画監督を目指して勉強中だった青年、野本大は「クルド難民」という重いテーマに取り組んだ。日本国内にいては、答えは見つからない。野本は、トルコへ、そしてニュージーランドへと飛ぶ。多くの人々と会い、彼が作り上げた作品は、何も知らない、自己中心の国日本への強烈なバックドロップとなった。

 (naoさん休みにつき、amoが書く)

キネマ見ましょか

告発のとき  IN THE VALLEY OF ELAH 2008年09月

【監督】ポール・ハギス

【出演】トミー・リー・ジョーンズ、シャリーズ・セロン、スーザン・サランドン

 イラク任務から両親の元に戻るはずの青年が、帰還直後に消息を絶ち遺体で発見された。事件の扱いに消極的な軍と警察の協力が得られない中、退役軍人の父親と一人の女性刑事がその真実を探し求める。事件に関わった兵士達の証言はまさに「藪の中」。それに翻弄される一方で、旧式の銃のような風情の父親が息子から届いたデジタル映像の謎を解く。ようやく辿り着いた真実に、映画を観る私たちは父親と同じようにそれを受け入れられず、また何を恨めばいいのかも分からない痛みを味わうことになる。
 深い悲しみの漂うこの作品を温かくしているのは、題名にも関係する女性刑事の息子が登場する場面だ。息子を亡くした父親と父親のいない息子の会話は、心の中に埋まらない隙間を抱えながら生きていくことへの諦めと希望を、静かに交感し合っているように思えた。

 (nao)

キネマ見ましょか

シークレット・サンシャイン 2008年08月

【監督】イ・チャンドン

【出演】チョン・ドヨン、ソン・ガンホ

 亡くなった夫の故郷で新しい暮らしを始めた矢先に一人息子を悲惨な事件で喪ってしまう母親。そんな彼女に思いを寄せる一人の男性…設定はまるでひっそりとした恋愛映画なのですが、柔らかなベールで包まれたお話ではありません。母親シネは意地っ張りで頑なで子供や現実と向き合っているとは云えないし、街のひと達も善意より好奇心が勝っています。悲しみを癒すはずの信仰も、都合のいい欺瞞に満ちた世界のように見えます。
 徐々に心の平衡を保てなくなっていく彼女の傍にはいつも、出会いの時から思いを寄せるジョンチャンがいました。おせっかいでちょっと俗っぽいけれど、彼女に対する態度はずっと変わりません。彼の想いはシネの上に覆われた雲の隙間から射す陽の光。その光を受けて、シネは新しい表情を鏡に映すことがでたのでした。 

 (nao)

キネマ見ましょか

ジュノ JUNO 2008年07月

【監督】ジェイソン・ライトマン
【出演】エレン・ペイジ、マイケル・セラ

 物語の始まりは高校生で妊娠しちゃった、というちょっと古風(?)な出来事。主人公ジュノにとっての初体験は、彼女の周りの人たちにも初めて接する事件でした。驚き戸惑うのは「大人」たちで、しっかりと意思を持ち自分の決断を実行していくのはジュノと友人の高校生たちです。成熟できないでいる大人に、チープな服装でガムを噛みながら「しっかりしなよ」と叱るジュノのかっこいいこと!思わず「すみません」と謝ってしまいました。
 16歳って結構しっかりしています。感受性は豊かだし、記憶力は良いし、神経伝導も活発だから判断も決断も素早いのです。10代を主人公にした映画は若さゆえの純粋さ、傷付きやすさを主体に描かれることが多いですが、この映画は若さゆえの賢さとたくましさを見直させてくれました。大人の皆さん、これを見て気持ちよく叱られましょう。 

 (nao)

キネマ見ましょか

アイム・ノット・ゼア 2008年06月

【監督】トッド・ヘインズ
【出演】ケイト・ブランシェット、ヒース・レジャー、リチャード・ギア、クリスチャン・ベイル、マーカス・カール・フランクリン、ベン・ウィショー

 一人の人物を六人の俳優が演じていることが話題になっている。しかしボブ・ディランに関しては、この手法は極めて正しい。
 ディランの“正史”についてはM.スコセッシ監督の『ノー・ディレクション・ホーム』に任せよう。例えばK.ブランシェットひとりがディランの半生を演じたらどうか。なんだか物理的に無理に思える。H.レジャー、彼には彼自身の人生を取り戻してあげたい。R.ギア、C.ベイル…彼らにもやはりひとりで演じきることはできない。それは俳優の力量のせいではない。だってボブ・ディランなのだから。六人でも足りないくらいだ。七人目のボブ・ディランは観るひとの頭の中。でも当人はきっと「私はそこになんかいないよ」と、そっぽを向いている。

 (nao)

キネマ見ましょか

マイ・ブルーベリー・ナイツ 2008年05月

【監督】ウォン・カーウァイ
【主演】ノラ・ジョーンズ ジュード・ロウ

 二人で歩いていて何かの拍子にはぐれてしまったら、どちらかは動かないでその場にじっとしていること。そうすれば相手が見つけてくれて、また出会うことができるから。この映画に登場するカフェの店長はそんな迷子の鉄則を守って、突然いなくなってしまった女性を探し歩くのではなく、もう一度出会うのを待つことを選びました。彼女についてはほとんど何も知らないけれど、はぐれてはいけないひとであることを彼は分かっていたのでしょう。
 風のようにいなくなり、また戻ってくる女性はカーウァイ監督の映画によく登場します。寒そうに肩をすくめて彼女を待つ男性も、二人の距離を近づける鍵や手紙、ビデオといった小道具も。この映画はジェレミーの焼くブルーベリーパイ。はぐれたついでに旅をして戻ってきた観客を、当然のように同じ味で迎えてくれました。

 (nao)

キネマ見ましょか

ダブリンの街角で once 2008年04月

【監督】ジョン・カーニー
【主演】グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァ

 アイルランドについてこれまで接した映像、文章、音楽といった様々な情報は、私の頭の中に「好ましい風景といとおしい人々に出会えるところ」というイメージを作り出しています。訪れたことがないのに懐かしく思う国です。
 音楽をきっかけに出会った男女。失ったものをもう一度取り戻したい、ずっと願っていたものを手にしたいと思いながら、器用に自分を進めていくことができないふたり。彼らが共有した時間はほんの短いものでした。それでもその時間は、次の一歩を照らす灯りをお互いの心にともし合った時間でした。次の一歩の先は分からない。自信も少しもないけれど、それでもおずおずと前に進むことを選ぶ。生きていくことはその繰り返しであるというかなしさを包み込むような、今現在のダブリンの街。新しい情報をこの映画で得て、アイルランドにまた懐かしい印象が深まりました。

 (nao)

キネマ見ましょか

スゥイニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 2008年03月

【監督】ティム・バートン
【主演】ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アラン・リックマン

時は19世紀、一人の蓬髪の男がロンドンに戻って来た。暗く鋭い瞳の奥に復讐の炎を燃やしながら。懐かしくも忌まわしいかつて住んでいた街で彼は友と再会する。その友は、彼の瞳のように鋭く光り輝く一揃いの剃刀だった…。
T・バートン&J・デップがお菓子工場物語に続いて届けてくれたこの映画は、ゴシック・スプラッタとでもいうのでしょうか。チョコレートと同じくらい血が流れてます。ぴかぴかの剃刀で人を殺してパイの具にしちゃいます。歌いながらです。勘弁してください。
原作は英国のミュージカルだそうです。十分に独創的で刺激的な物語を新たに映画で作って、それをどこから見ても自分の色にしてしまうのがこの監督の立派なところです。冒頭で私たちは、主人公と同じ目線で猛スピードでフリート街にたどり着かされてしまいます。もう監督の刃から逃れられません。 (nao)

キネマ見ましょか

4分間のピアニスト 2008年02月

【監督・脚本】クリス・クラウス
【主演】ハンナー・ヘルツシュプルング、モニカ・ブライブトロイ

このコラムを担当して下さっているnaoさんが風邪のためお休み。今回はnaoさんの友人のamoさん(a)と当社印刷部のtiku(t)の対談をお届けします。
a:音楽映画ファンの私としては、しびれたわ。
t:ぼくも感動しました。とくにラストシーン。
a:その話はあとでゆっくりと…。まずストーリーを紹介しなくちゃ。
t:刑務所に収監されている女の子がピアノの天才で、受刑者たちにピアノを教えに来ているおばあさんの先生がその才能にほれ込んで、若手のピアニスト発掘コンテストで優勝めざしてしごきまくる。
a:看守や他の囚人たちの嫌がらせもあったりして、主人公の子は問題を起すしで、彼女はコンテストに出場できるのか、ってハラハラした。
t:なんだか、ありきたりの人物設定とストーリーという感じもするんですが。
a:そうかなあ。主人公のジェニーとピアノ教師のおばあさんの演技に引き込まれてしまって…。そして、なんといっても音楽が最高じゃない? ジェニーが鍵盤を叩くたびにゾクゾクしたわ。
t:ぼくもジェニーにはまいっちゃいましたよ。わが国で例えるなら堀北真希ちゃんってところかな。スクリーンに釘付けでしたよ。それに、あのピアノの先生、前につとめていた会社の会長さんにそっくりなんだ。なんか親近感の湧く映画だったなあ。
a:ああ、そう。まあ、その会長さん…じゃなくてピアノの先生とジェニーって、いい関係よね。
t:ですね。看守も粋な計らいを見せたし。くらい映画だけど、ハッピーな気持ちになりました。
a:で、問題のラストシーン…。
t:やっぱりそれは伏せておいたほうがよいかも。
a:そうね。かわりにオフィシャルサイト(http://4minutes.gyao.jp/intro/)を紹介しておきましょ。
t:じゃ、最後にまとめのとして何かひと言…。
a:はい。あなたの「生きる目的は何ですか?」

キネマ見ましょか

転々-てんてん- 2008年01月

【監督】三木 聡
【主演】オダギリ ジョー、三浦 友和

 中年と青年の二人の男性が街を散歩。それだけでもどこか不思議なのに、その二人は借金の取立て屋とそのターゲット、しかも取立て屋は奥さんを殺した、なんて云っている。変わったことばかり起こる道行きの末、二人が落ち着いた先は他人同士で作られた「家族」でした。
 この映画を見て「家族」の定義は実は難しい、と思いました。両親に捨てられて何年も泣く事を忘れていた青年は、架空の家族との団欒を楽しみ、別れに涙を流します。彼にとって本当の家族はどちらなのだろう。CMに登場するどう見ても血の繋がりのなさそうな家族のように、割引がきくのが家族なのでしょうか。携帯料金だけでなく悲しみとか憎しみとか。映画の二人のように散歩をすれば、重苦しくなく「家族」について考えることが出来るかもしれません。(nao)

(nao)

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