Little DJ ~小さな恋の物語~ 2007年12月

【監督】永田 琴
【主演】神木 隆之介、福田 麻由子

 10代の頃、ラジオは傍にありました。MTVのなかった当時は、新しい曲を聞いたのも、昔の音楽を勉強したのも、すべてラジオでした。そしていつの間にか、たまにタクシーや美容院で聞くだけのものになってしまった頃、枕元に再びラジオを置く日が来ました。それは病院のベッドでのこと。3週間の入院の間、傍に置くのを選んだのはテレビではなく、少し時代遅れの型をしたラジオでした。
 この映画は憧れだったDJになった男の子の物語です。彼の番組がオンエアされたのは、患者として入院した病院でした。私がいた病院に彼がいたら、きっと毎日リクエストを書いたでしょう。スピーカーから流れる彼の声に体調を心配したりもするでしょう。ひとの語る言葉と音楽の持つ力を信じながら、そっとお互いの回復を祈ったと思います。そしてi-Podで70年代の曲を聞いている今も、その力を私は信じているのです。

(nao)

キネマ見ましょか

サウスバウンド 2007年11月

【監督】森田 芳光
【主演】豊川 悦司、天海 祐希、松山 ケンイチ

 いるんです。こういう父親。彼のように元過激派でもアナーキストでもないけど、我が子でさえ困っちゃうような偏った自信と主張を持っていて周りはとにかく扱いかねてしまうのです! あ、ちょっと愚痴っぽいですか? そんな訳で始めのうちは微かな不快感すら抱きながら見ていました。
 でもこのお父さんの曇りのない笑顔にだんだん乗せられてきてしまいました。東京ではごろごろしていたくせに西表島に着いた途端、息を吹き返したように行動を始めます。口先ばかりではなく、やる時はとことん本気でやる人だったんですね、お父さん。その本気がとうとう大変な騒ぎを起こしてしまうけど、でもこのお父さん(と、さらに大物のお母さん)なら笑顔で乗り切ることでしょう。そしてしっかりした子供達がいれば。実際、この頃奇妙なほど大人びた子供たちが多いのは、大人が大人じゃないからかなぁと思い、最初の愚痴は忘れて反省した次第です。

(nao)

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夕凪の街 桜の国 2007年10月

【監督】佐々部 清
【主演】田中 麗奈、麻生 久美子、堺 正章

 近くで生まれ育ち、今も同じ街に住んでいるので週に数度必ず通る平和公園。「ヒロシマ」を忘れることがないのと同時に、あまりに日常すぎて意識もしない環境に暮らしています。この映画を見て、主人公が歩いた道を歩きながら、そこに何度夏が終わっても終わることのない物語があることをあらためて思いました。
 主人公が亡くなる前に、また一人殺せたから嬉しい?と問いかける場面があります。この言葉で、疎開で広島を離れていた私の母が生前、「私を殺したかったのかと思うと許せない」と云っていたのを思い出しました。敵国にダメージを与えるということは、人間を殺すこと、ひとりひとりの人生を断ち切ってしまうこと。この簡単で最も重大な事実を思い出させる映画です。袖の短いワンピースからそっと目をそむける主人公の真夏の長袖姿が眩しく哀しく目の奥に残りました。

(nao)

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天然コケッコー 2007年09月

【監督】山下 敦弘
【主演】夏帆、岡田 将生、佐藤 浩一

  こんにちは。筆者のnaoです。実は私の勤務先は学校です。そのため映画やテレビで学校の場面を見る時に細かいところに目が向きます。作り物っぽいと思うものもあれば、こういうやり方もあるなと役に立つこともあります。
 この映画は小・中学校合わせて生徒が7人の超小規模校の中学生が主人公です。市内の学校にいると想像も出来ない環境ですが、学校の造りや生徒の言動がさりげなく自然で気持ちよく見ることができました。
 中学生の頃は今思えば何でもないことが大事件でした。喜ぶことにも傷つくことにも敏感で、胸の振り子は毎日大きく揺れていました。時が経っても変わらないそんな10代の気持ちも、"今どきの若者"の姿も誇張することなく描いてある作品です。見ながら何度も思いました。こんな学校で働いてみたい!

(nao)

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傷だらけの男たち 2007年08月

【監督】アンドリュー・ラウ&アラン・マック
【主演】トニー・レオン  金城 武

 題名の「男たち」は主人公の二人。一人は恋人を喪ってしまった理由を探し求めながら荒んだ生活を送っている。もう一人の主人公は幸せな結婚をし、いつも優しい微笑をたたえてスマートに生きている。その笑顔が隠している暗い一面に気が付いたのは、癒されないままの傷を抱えている男だった。不可解な事件を追う過程で徐々に明らかになる幸せな筈の彼の過去。抱えている男にとっても、心ならずも暴くことになってしまった男にとっても、辛い過去が解明された時、新たな悲劇が暴発する。
 トニー・レオンと金城武といえば『恋する惑星』を思い出す。この作品で人を想う切なさと甘美さを軽妙に演じた二人が今回の映画で見せるのは、心の中がのた打ち回るような生き様。男たちの想いは重く、そしてやっぱり切ない。

(nao)

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アポカリプト 2007年07月

【監督】メル・ギブソン
【主演】ルディ・ヤングブラッド,ダリア・ヘルナンデス,ジョナサン・ブリューワー モリス・バード,カルロス・エミリオ・バエズ

 タニシ企画印刷移転に際し、今回は"新しい始まり"を求めた青年を描いた映画の話をします。その映画はメル・ギブソン監督の最新作『アポカリプト』。歴史の授業やテレビの紀行番組では触れられることのない、生身の人間たちと彼らが生きて滅びていった時代の物語でした。
 この映画を見て最も強く思ったのは、死ぬってこんなに痛くって血がたくさん出ることなんだ、ということでした。物語を語るための極端なシーンも誇張しすぎる部分も確かにある作品です。けれど人間の生死は決して観念的なものではない、頭の中で思い描くものではなく一人ひとりが現実的に対峙しなければならないものだ、と語りかける力強さは他の映画には無いものでした。森の中を走る主人公は世界を救う不死身のヒーローではありません。新しい始まりのために、そして愛のために戦うひとりの、私たちと変わらない人間です。

(nao)

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主人公は僕だった 2007年06月

【監督】マーク・フォースター
【主演】ウィル・フェレル、エマ・トンプソン、ダスティン・ホフマン

 映画の主人公には時々何者かの‘声’が聞こえる。「それを作れば彼はやってくる」という声を聞いて野球場を作った主人公のように。この映画の主人公ハロルドに聞こえてきた声は、彼を主人公にした小説の作者のものだった。その声は悲劇的な結末を暗示。職場と自宅を往復するだけの毎日を送っていたハロルドはハッピーエンドを求めて行動し始める。文学部の教授の助けを借りながら遂に作者と対面した彼が渡された草稿のラストは?
 最期の予告が聞こえなくても、人は皆いつか死んでしまう。その事実を受け入れて初めて人は意思を持って生きていくことを始めるのかもしれない。愛すること、許すこと、そして誰かのために手を差し伸べ心を開くこと…いつかは無くなる自分の命のために大切だと思うことが出来るように、そっと耳を澄まして声を探してみる。たぶんそれは神のものではない。もっと近しい声、もしかしたら自分自身の、声。

(nao)

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ユメ十夜 2007年05月

【監督】実相寺昭雄、市川崑、清水崇、清水厚、豊島圭介、松尾スズキ、天野喜孝&河原真明、山下敦弘、西川美和、山口雄大
【主演】小泉今日子、うじきつよし、他

 お伽話などで「夢落ち」というものがあります。「不思議の国のアリス」のように、実は夢でした、で終わる、ちょっと反則のような結末です(それでも「アリス」は面白いですけど)。その点、夏目漱石の「夢十夜」は"こんな夢を見た"で始まる「夢落ち」ならぬ「夢始まり」。何が書いてあっても訳が分からないなんて云わせない、これも反則のひとつかも。
 見た夢を文章にするのは難しい。話して他人に興味を持たせるのも難しい。面白くもない夢の話を聞かされてどう反応したらいいのか困ったこと、あるでしょう?でも漱石の「夢十夜」は不思議な魅力に溢れる連作です。自分が書き残すことが出来なかった夢がそこに書かれているような気にさせられます。その原作を十人十色の描き方で映像にしたのが本作品です。漱石の文章の香りまで伝わった実相寺監督作品、2ちゃんねる語で語りながら実は原作に最も忠実な松尾作品…十編続けて見ると混乱してしまいそうですが、今夜の夢でまた続きを見るのかもしれないですね。

(nao)

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ドリームガールズ 2007年04月

【監督】ビル・コンドン
【主演】ビヨンセ・ノウルズ、エディ・マーフィー、ジェニファー・ハドソン、ジェイミー・フォックス

 映画館で同級生に遭いました。また、職場の同世代の女性陣が揃って「見たい!」と云っていました。ビヨンセにもモータウンにも特に興味がない、かなり昔にガールだった女性達をそんな気にさせるのがこの映画です。歌うことが大好きな少女達の挫折と成功を描いた物語ですが、彼女達に関わる男性達の役割が絶妙です。成功に導いてくれるけれど人生を満たしてはくれない夫、軽薄だけどいとおしい、必死に生きて破滅していく恋人、優しく厳しく付かず離れずいてくれる兄、そして全ての人に見放された時、引っ張りあげてくれる父親のような年配の男性。昔のガール達は彼らに誰かを重ねて見るかもしれません。
 映画のように明確ではないけれど、何かを夢見ていた頃のことも思い出して、頑張っていたあの頃の私はどこへ行ったのかしら、とほろ苦い気持ちにもなるでしょう。でも映画館を出た時、きっと心の中のドリームガールが背中を押して前を向かせてくれることと思います。

(nao)

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ヘンダーソン夫人の贈り物 2007年02月

【監督】スティーブン・フリアーズ
【主演】ジュディ・デンチ、ボブ・ホプキンス

 第二次世界大戦の最中に英国で初めて裸体女性のレビューを企画開催した女性の物語。ということで、皮肉な笑いに満ちた映画を予想していました。実際にそういう部分もありましたが、それだけのお話ではありません。
 主人公は金持ちの未亡人ならではの傲慢さも持っていますが、それが見ていてとても気持ちがいい。間違っていないと思っても、自分の云いたいことをはっきり主張したり、思うままの行動をとるのは難しいことです。けれどヘンダーソン夫人はそれを堂々とやってのけてくれます。そんな怖いもの知らずで格好いい彼女の突飛な発想や体制に屈しない姿勢は、実は悲しい思い出から導かれたものでした。この映画は、時間はかかるけれど涙を笑顔に変えられる日はきっとくるのよ、と温かい手で包まれるような気持ちになる物語です。

(nao)

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