逆も真なり
「練習を休むのも練習のうち」
―阿南準郎
本格的なプロ野球のキャンプの時期である。各監督は、Vを目指してチームの骨格づくりに…、各選手は、技量の上達に更なる練磨に…、励む。ファンは、テレビ、新聞を通じて伝えられる「キャンプ便り」に胸がときめく。
この時期になると思い出すのは、冒頭の言葉。これはけだし『名言』である。
今から十八年前、当時、広島の監督だった阿南準郎さんは、キャンプでの正田耕三選手の昼夜を問わず打撃練習に打ち込む姿を見て伊勢孝夫コーチに「正田の練習にブレーキをかけたらどうだい」と伝えた。
というのも、正田は一九八七、八八年、連続首位打者になった。前年の八八年には、すでに右手首を痛めていた。それでもなお正田は、三年連続首位打者を目標に、昼夜の練習のあと夜間練習場にでかけての打撃練習に打ち込む。彼の気迫に圧倒されながらも伊勢コーチは、長時間の練習を思いとどめさせる。が、正田は自分が納得いくまで続けた。
「どれだけ練習すれば、首位打者になれるか」と彼には彼なりの体感による練習量があったようだ。キャンプ中、夜間練習から宿舎に帰ってきた正田に、阿南監督は言った。
それが冒頭の言葉だった。
「正田。練習を休むのも練習だよ」
阿南監督は、厳命だとも言った。
「わかりました。監督…」
正田は意外と素直に答えた。私はたまたま居合わせて、その光景を見た。
当時、三年連続首位打者になったのは、巨人の長島茂雄(一九五九、六〇、六一年)と王貞治(一九六八、六九、七〇年)の二人。
正田は右手首を痛めながらもONに挑んだわけであった。彼は翌平成一年、3割2分3厘の好成績を残したが、首位打者の巨人・クロマティーの3割7分8厘に及ばなかった。
のちに正田は、近鉄、阪神球団の指導者として転出したが、阿南監督の説いたのは、逆説の真理。逆も真なり―である。私はマラソンの著名な監督の言葉を思い出した。
「走りながら休め」
これも逆説的で含蓄のある言葉。良き指導者は、ときとしてこの手法で選手を育てる。
(風彦)