妙義山倫氏(田村倫子) 著
有限会社 文化評論 発行
繊細ゆえに自分の芸術を見失うのをおそれ、田舎で隠遁生活を送っている画家、西洞惟也。彼のもとに、大学時代の恩師が訪ねて来るところから、このお話は始まります。恩師の語った、「幾年にもわたって生者に訴える、怨念のような死者の苦しみ」にまつわる話に、惟也は心を奪われます。恩師と別れた後、旅に出た彼は、旅の僧侶と出会い、まさに「幾年にもわたって生者に訴える、怨念のような死者の苦しみ」を思い知ることになります。
現代から過去へ、過去から再び現代へ。日常から逸脱した幻想的な体験を通して、主人公の惟也は、自分の進むべき道を発見する…。変転する時制を読み解きながら、頁を繰っていくうちに、日常とは別の時間の流れ作品=著者の精神世界に取り込まれていることに気づくでしょう。
何度かの打ち合わせでご一緒した著者の田村さんは、幻視者というか、不思議な雰囲気を醸し出している方。絵のお仕事をされ、本書の表紙の絵も田村さんご自身の筆によります。
[自費出版本]→[お金を出しさえすれば誰でも出版できる]という図式が、多くの人の頭に浮かぶかもしれません。本書は当社から自費出版された本ではありますが、編集に関わった者の一人として、上記のような図式では定義することのできない本であると思っています。(哉)